お江戸のベストセラー

根南志具佐ねなしぐさ

原文(一之巻)

根南志具佐 一之巻06

牛若うしわか天狗てんぐにしめられ、増賀聖ぞうがひじり業平なりひら後醍醐帝ごだいごてい阿新くまわか信長のぶなが蘭丸らんまる其名そのな高尾たかを文覚もんがく六代ろくだい御前ごぜんにうつゝをぬかし、いらざる謀反むほんをすゝめこみ、頼朝よりとものとがめをうけしより娑婆しやばにてしりるといふことばはじまれり。但馬たじまさき箱根はこね底倉そこくら湯治たうぢするものおほきは、皆此みなこの男色なんしよくあるゆゑなり。むかし坊主ばうずばかりがもてあそびゆゑにや、といふ⽧冠やまひかんむりてらといふなり。しかるに近年きんねん僧俗そうぞくおしなべてこのむことはなはだもつて不埒ふらちいたりなり。いまより娑婆しやば世界せかいにて男色なんしよく

相止候様あひやめそろやう急度きつとまをしわたすべしとの勅命ちよくめい皆々みな/\はつとおうけまをしけるが、十王じふわううちより転輪王てんりんわう進出すゝみいでまをしけるは、勅定ちよくぢやうかへたてまつるはおそれおほきにたれども、おもこといはでやみなんもはらふくるゝわざなりおほせとほ男色なんしよくまたがいなきにあらず。しかはあれども其害そのがい女色ぢよしよくすればいたつかるくして、 中々なか/\同日どうじつだんにあらず。たとへば、女色ぢよしよくはそのあまきみつのごとく、男色なんしよくあはきことみづのごとし。無味むみあぢ佳境かきやういらずんばしりがたし。これ畢竟ひつきやう大王だいわう若衆わかしゆ御嫌おきらひなるがゆゑ、上戸じやうご餅屋もちやをやめさせ