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根南志具佐(ねなしぐさ)

原文(一之巻)

根南志具佐 一之巻08

▼開

かぐ鼻(はな)は鼻(はな)をいからし、其外(そのほか)一座(いちざ)に有(あり)あふたる牛頭馬頭(ごづめづ)、阿防羅刹(あばうらせつ)まで額(ひたい)の角(つの)を振立(ふりたて)て感(かん)ずる聲(こゑ)止(やま)ざりければ、閻王(ゑんわう)覚(おぼ)へず目(め)をひらき御覧(ごらん)じけるに、越(こよ)なふあてやかなるに心(こゝろ)動(うごき)、初(はじめ)笑(わらひ)しことはどこへやら、只(たゞ)茫然(ばうぜん)と空蝉(うつせみ)のもぬけのごとくになりて、覚(おぼへ)ず玉座(ぎよくざ)よりころび落(おち)給へば、 皆々(みな/\)驚(おどろき)いだき起(おこ)し奉(たてまつ)れば、漸(やうやく)正気(しやうき)付(つか)せ給ひ、ため息(いき)をほつとつき、扨々(さて/\)かた/\が見(み)る前(まへ)面目(めんぼく)もなき事(こと)ながら、我(われ)思(おも)はずも此(この)絵姿(ゑすがた)のみやびやかなるに迷(まよ)りたる心(こゝろ)を何(なに)と遍照(へんぜう)が

哥(うた)のさまなる我(わが)ふるまひ、扨(さて)つく/\と按(あん)ずるに、古(いにしへ)より美人(びじん)の聞(きこ)え数(かず)もかぎらぬ其中(そのなか)にも、またならぶべき人(ひと)もなし。西施(せいし)がまなじり、小町(こまち)が眉(まゆ)、楊貴妃が唇(くちびる)、赫奕姫(かくやひめ)が鼻筋(はなすぢ)、飛燕(ひえん)が腰(こし)つき、衣通姫(そとおりひめ)の衣裳(いしやう)の着(き)こなし、ひっくるめたる此(この)姿(すがた)、桐(きり)は御守殿(ごしゆでん)、山丹(ひめゆり)は娘盛(むすめざかり)と瞿麦(なでしこ)の、などゝは並々(なみ/\)の事(こと)、花にも月にも菩薩(ぼさつ)にも又(また)あるべきともおもほへず、まして唐(から)日本(につぽん)の地(ち)にかゝるもの二度(にど)生(しやう)ずべきにあらざれば、我(われ)も是(これ)より冥府(めいふ)の王位(わうゐ)を捨(すて)、娑婆(しやば)に出(いで)て此者(このもの)と枕(まくら)をかわ