かぐ鼻は鼻をいからし、其外一座に有あふたる牛頭馬頭、阿防羅刹まで額の角を振立て感ずる聲止ざりければ、閻王覚へず目をひらき御覧じけるに、越なふあてやかなるに心動、初笑しことはどこへやら、只茫然と空蝉のもぬけのごとくになりて、覚ず玉座よりころび落給へば、 皆々驚いだき起し奉れば、漸正気付せ給ひ、ため息をほつとつき、扨々かた/\が見る前面目もなき事ながら、我思はずも此絵姿のみやびやかなるに迷りたる心を何と遍照が
哥のさまなる我ふるまひ、扨つく/\と按ずるに、古より美人の聞え数もかぎらぬ其中にも、またならぶべき人もなし。西施がまなじり、小町が眉、楊貴妃が唇、赫奕姫が鼻筋、飛燕が腰つき、衣通姫の衣裳の着こなし、ひっくるめたる此姿、桐は御守殿、山丹は娘盛と瞿麦の、などゝは並々の事、花にも月にも菩薩にも又あるべきともおもほへず、まして唐日本の地にかゝるもの二度生ずべきにあらざれば、我も是より冥府の王位を捨、娑婆に出て此者と枕をかわ