さば王位の貴も何かわせんと、御目の内もしどろにて、うかれ出んとし給ふ所に宗帝王かけ出、御袖をひかへ、にがり切て申けるは、こはけしからぬ大王の御振舞、わづか一人の色におぼれ此冥府の王位を捨、娑婆に出て人間にまじわり給はゞ、地獄極楽の政は執行者もなく、善悪を正すべき所なければ、三千世界の衆生は何を以て教をせんや。かゝる貴き御身をば優童買と成果なはゞ、極楽に満々たる金の砂は忽に堺町の有となり、いくら有とも使足らず
は、金のなる木がわしやほしいと悔断に成ては、極楽の先生釈迦如来の黄金のはだへまで潰に掛て下金屋へ売てやり、地蔵は長太郎坊主同然に子共のなぶりもと落ぶれ、びんが鳥は両国橋の見せものとなり、天人も女衒の手に渡り、三途川の婆はのり売婆と変じ、仁王は辻竹輿かくやうに成行かば、地獄極楽破滅せんは目のあたりなるに、其気の付ざる御年ぱいにもあらず、また譬当世を見習て蝙蝠羽織に長脇指、髪は本田に銀ぎせる、男娼買と