お江戸のベストセラー

根南志具佐ねなしぐさ

原文(一之巻)

根南志具佐 一之巻04

おの勝手かつてしかくし、おためごかしに数通すつう願書ぐわんしよ地獄ぢごく沙汰さたぜに次第しだい油断ゆだんせぬなかとぞられける。閻王ゑんわうもさま/\のまつりこときかせられければ、すこしいとまもなきをりふし、獄卒ごくそつども地獄ぢごくつきたる高提灯たかてうちんさきたて一人ひとり罪人ざいにん引立ひきたてきたれり。閻王ゑんわうはるかに御覧ごらんあれば、としころ廿はたちばかりそう色白いろしろやせたるに、かせくびかせをいれこしのまはりになにやらんふくさにつゝみたるものをくゝりつけてぞありける。此者このものいかなるつみにてあるたづね給へば、かたはらより倶生神くしやうじんまかりいでまをしけるは、此坊主このばうず

南瞻部洲なんぜんぶしう大日本国だいにつぽんこく江戸えど所化しよけなるが、堺町さかひてう若女形わかをんながた瀬川せがは菊之丞きくのぜうといつる若衆わかしゆいろそめられて、師匠しせう身代しんだいからくれない、にしき戸帳とちやう道具市だうぐいちにひるがへり、行基ぎやうぎさく弥陀如来みだによらい質屋しちやくら御来迎ごらいかう若衆わかしゆこひのしすごしに、しりのつまらぬしりがわれて、座敷牢ざしきらう押込おしこめられ、したふかいなくおの宇津うつ山部やまべうつゝにもあはれぬことやんで、むなしくあのさりけるが、だんまつまのにも忘得わすれえぬは路考ろかうおもかげなりとて此所このところまでもをはなさずアノこしつけたるは鳥居とりゐ清信きよのぶ