お江戸のベストセラー

根南志具佐(ねなしぐさ)

原文(四之巻)

根南志具佐 四之巻09

▼開

梶枕(かぢまくら)、一夜(ひとよ)の情(なさけ)有磯海(ありそうみ)の深心(ふかきこゝろ)を明(あか)し合(あ)はゞ、 此世(このよ)の願(ねがひ)足(たり)なんとて、路考(ろかう)が手(て)を取(とり)よりそへば、さすが上(うへ)なき粋(すい)ながら、向(むか)ふよりは思(おも)ふ事(こと)のいとふかく、我(われ)もまた此人(このひと)ならではと、思(おも)ふ心(こゝろ)のおもはゆく、詞(ことば)はなくて銚子(てうし)取(とり)つゝ盃(さかづき)をさし寄(よす)れば、彼(かのおとこ)、丁(てう)と請(うけ)てつゝと干(ほし)て路考(ろかう)にさす。呑(のん)ではさし、さしてはのみ、合(あひ)もおさへも二人(ふたり)なれば、数々(かず/\)めぐり逢(あ)ふことゝも、結(むすぶ)の神(かみ)の引合(ひきあは)せ。夜(よ)もはや五(いつ)つむつごとの雲(くも)となり、龍(りやう)とならんと月夜烏(つきよがらす)を心のせいし、互(たがひ)のちぎり浅(あさ)からず。こけるともなく

寝(ね)るともなく、互(たがひ)の帯(おび)の打(うち)とけし、二(ふた)ッ枕(まくら)のさゞめ言(ごと)、いかなる夢(ゆめ)を見(み)しかいざしらず。

根奈志(ねなし)艸(ぐさ)四之巻(しのまき)終(おはり)