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根南志具佐(ねなしぐさ)

原文(四之巻)

根南志具佐 四之巻08

▼開

に移(うつ)れる俤(おもかげ)をやゝ見(み)とれたる其(その)風情(ふぜい)、さすが岩木(いはき)にあらざれば、我(わ)レ思(おも)ふ人(ひと)の捨(すて)がたく、やゝ打(うち)ながめ居(い)たりしが、互(たがひ)に云出(いひいづ)る詞(ことば)もなく、折(をり)しも風(かぜ)のそよと吹(ふき)ければ、彼男(かのおとこ)ふりあをむきて
  身(み)は風(かぜ)とならばや君(きみ)が夏衣(なつころも)
と吟(ぎん)じければ、菊之丞(きくのぜう)取(とり)あへず
  しばし扇(あふぎ)の骨(ほね)を垣間見(かいまみ)
是(これ)より少(すこ)しほころびて彼男(かのおとこ)舟(ふね)さし寄(よせ)、菊之丞(きくのぜう)が舟(ふね)につなぎ捨(すて)打(うち)のりつゝ、日(ひ)の暮(くれ)てより越(こよ)のふ涼(すゞ)しくなりたりなんどゝよそ事(ごと)に

いひものすれば、菊之丞(きくのぜう)は手(て)づから銚子(てうし)盃(さかづき)なんどたづさへ来(きた)り。先程(さきほど)ふつゝかなる口(くち)ずさみに、やんごとなき御脇(おんわき)賜(たま)はりしより、只人(たゞびと)ならず見参(みまゐ)らせたり。一樹(いちじゆ)の陰(かげ)一河(いちが)の流(ながれ)も一(ひと)かたならぬゑにしとなん聞(きゝ)侍(はべ)りたり。何国(いづく)の人(ひと)ににてましますぞや御名(おんな)ゆかしと尋(たづぬ)れば、我(われ)は浜町(はまてう)辺(へん)に住(すめ)るものなり。夏(なつ)の間(あひだ)は暑(あつき)をさけんため人(ひと)なんどもつれず、我(われ)一人(ひとり)小舟(こぶね)に棹(さを)さし、此(この)風景(ふうけい)を楽(たのしみ)とせり。しかるに、けふ思(おも)はずも君(きみ)が姿(すがた)を垣間見(かいまみ)しより、思(おも)ひははれぬ天雲(あまぐも)の、ゆくら/\と釣舟(つりぶね)の浪(なみ)のたゞよふ