お江戸のベストセラー

根南志具佐ねなしぐさ

原文(四之巻)

根南志具佐 四之巻03

おんいたゞき浅草あさくさ代参だいまゐりはあし名付なづけぜにのはたらき。釣竿つりざを親仁おやぢ太公望たいこうばう顔色がんしよくうつし、 一枚絵いちまいゑむすめ王昭君わうせうくんがおもむきにたり。 てんとぶ蝙蝠かうもりとらことおもひ、にたゝずむよたかはきやくをとめんことをはかる。みづふねか/\の自由じゆうあれば、くが輿かごやろふのまはしあり。そうあればぞくあり、おとこあればおんなあり。屋敷やしきさむらい田舎ゐなかめける、まちものゝ当世たうせい姿すがたながきくしみじかき羽織はおり若殿わかとのともはびいどろの金魚きんぎよをたづさへ、奥方おくがた附々つき/\今織いまおりのきせるづゝをさげ、もゝのすれるこしもとおのれしりひきずり、

わた歩行かちのいかつがましきは大小だいせうながきさゝれたるがごとし。流行はやり医者いしや人物じんぶつらしき、俳諧師はいかいし風雅ふうがくさき、したゝるとてぴんとするものは色有いろあり女妓おどりこへ、ぴんとしてしたゝるきものは長局ながつぼね女中ぢよちうらる。剣術者けんじゆつしやのひねり、六尺ろくしやくこしのすはり、座頭ざとう鼻歌はなうた御用達ごようたしのつぎ上下かみしも浪人らうにん破袴やぶれはかま隠居ゐんきよ十徳じつとく姿すがた役者やくしやののらつき、職人しよくにんいそがしき、仕事師しごとしのはけのながき、百姓ひやくせうびんのそゝけし、芻蕘すうぎやうものゆき雉兎ちとものきたる。さま/\の風俗ふうぞく色々いろ/\かほつき、おしわけられぬ人群集ひとくんじゆ