ほゆ。長命丸の看板に親子連は袖を掩ひ、編笠提た男には、田舎侍懐をおさへてかた寄、 利口のほうかしは豆と徳利を覆し、西瓜のたち売は行燈の朱を奪ふ事を憎。虫の聲々は一荷の秋を荷ひ、ひやつこい/\は清水流ぬ柳陰に立寄、稽古じやうるりの乙はさんげ/\に打消れ、五十嵐のぶん/\たるはかば焼の匂ひにおさる。浮絵を見るものは壺中の仙を思ひ、硝子細工にたかる群集は夏の氷柱かと疑ふ。鉢植の木は水に蘇、はりぬきの亀は風を以て魂とす。 沫雪の塩からく、幾
世餅の甘たるく、かんばやしが赤前だれは、つめられた跡所斑に、若盛が二階座敷は好次第の馳走ぶり。燈籠売は世帯の闇を照し、こはだの鮨は諸人の酔を催す。髪結床には紋を彩、茶店には薬罐をかゞやかす。講釈師の黄色なる聲、玉子/\の白聲、あめ売が口の旨、榧の痰切が横なまり、燈籠草店は珊瑚樹をならべ、玉蜀黍は鮫をかざる。無縁寺の鐘はたそがれの耳に響、 浄観坊が筆力は、どふらく者肝先にこたゆ。 水馬は浪に嘶、山猫は二階にひそむ。一文の後生心は甲に万年の