お江戸のベストセラー

根南志具佐ねなしぐさ

原文(四之巻)

根南志具佐 四之巻02

ほゆ。長命丸ちやうめいぐわん看板かんばん親子連おやこづれそでおほひ、編笠あみがささげおとこには、田舎侍いなかさむらいふところをおさへてかたより利口りこうのほうかしはまめ徳利とくりくつがへし、西瓜すゐくわのたちうり行燈あんどんあけうばことにくむむし聲々こゑ/\一荷いつかあきになひ、ひやつこい/\は清水しみづながれやなぎかげ立寄たちより稽古けいこじやうるりのおつはさんげ/\に打消うちけされ、五十嵐いがらしのぶん/\たるはかばやきにほひにおさる。浮絵うきゑるものは壺中こちうせんおもひ、硝子びいどろ細工ざいくにたかる群集くんじゆなつ氷柱つらゝかとうたがふ。鉢植はちうへみづよみがへり、はりぬきのかめかぜもつたましひとす。 沫雪あはゆきしほからく、いく

世餅よもちあまたるく、かんばやしが赤前あかまへだれは、つめられたあと所斑ところまだらに、若盛わかもり二階にかい座敷ざしきこのみ次第しだい馳走ちそうぶり。燈籠売とうろううり世帯せたいやみてらし、こはだのすし諸人しよにんゑひもよほす。髪結床かみゆひどこにはもんいろどり茶店ちやみせには薬罐やくわんをかゞやかす。講釈師かうしやくし黄色きいろなるこゑ玉子たまご/\の白聲しろいこゑ、あめうりくちうまきかや痰切たんきりよこなまり、燈籠草ほゝづきみせ珊瑚樹さんごじゆをならべ、玉蜀黍とうもろこしさめをかざる。無縁寺むえんじかねはたそがれのみゝひゞき浄観じやうくわんぼう筆力ひつりよくは、どふらくもの肝先きもさきにこたゆ。 水馬すゐばなみいなゝき山猫やまねこ二階にかいにひそむ。一文いちもん後生心ごしやうしんかう万年まんねん