形舟の数々、花を飾る吉野が風流、高尾には踊子の紅葉の袖をひるがへし、えびすの笑聲は商人の仲ヶ間舟、坊主のかこひものは大黒にての出会、酒の海に肴の築島せしは兵庫とこそは知られたり。琴あれば三弦あり、楽あれば囃子あり、拳あれば獅子あり、身ぶりあれば聲色あり。めりやす舟のゆう/\たる、さわぎ舟の拍子に乗て船頭もさつさおせ/\と櫓をはやめ、祇園ばやしの鉦太鼓、どら、にやう鉢のいたづらさわぎ、葛西舟の悪くさきまで、入乱たる舟いかだ。
誠にかゝる繁栄は江戸の外に、又有べきにもあらず。去程に菊之丞が仕出し舟、荻野八重桐、 鎌倉平九郎、中村与三八なんどは、芸はもとより珍しからず、さわぎも又うるさし。役者の舟遊に三弦浄るりを翫は、学者の書を講じ、 出家の経を読、米つきの杵をかつぎ、大工の手斧を腰にさして、花見遊興に出るがごとくなればとて、いと静に酒酌かはし、人のさわぎを見て歩行は、月夜に挑灯のいらぬと同じ道理にて、見らるゝ者も恩に着せず、見る者は心遣もなく、さりと