お江戸のベストセラー

根南志具佐ねなしぐさ

原文(四之巻)

根南志具佐 四之巻04

は、諸国しよこくひといへむなしくしてきたかとおもはれ、ごみほこりのそらみつるは世界せかいくも此処このところよりしやうずる心地こゝちぞせらる。ことわざにも、あさよりゆふべまで両国橋りやうごくばしうへやり三筋みすじたゆることなしといへるはつねことなんめり。なつなかばよりあきはじめまですゞみさかりなるときは、やり五筋いつすじ十筋とすじたえやらぬほど人通ひとゞほりなり。にしおふ四条しでう河原がはらすゞみなんどは糸鬢いとびんにしてでつちにもつれべきほどにぎはひにてぞありける。またかゝるそう/\しきなかにもこいといへるものゝあればこそ、おんな太夫だいふきゝとれて、屋敷やしき中間ちうげんもんかぎりわすれ、あるひはしほ

らしき後姿うしろすがたひとおしわけむかふへたちまはれば、おもひのほかなるかほつきにあきれさきゆきたる器量きりやうほむれば、あとからきた女連おんなづれおのれことかと心得こゝろえてにつことわらふもおかし。つゝなかから飛出とびで玉屋たまやぎは、 闇夜やみよぢやうあけ鍵屋かぎや趣向しゆかうソリヤ花火はなびといふほどこそあれ、流星りうせい其処そのところ見物けんぶつこれむかふの河岸かしからはしうへまで、ひとなだれをうつてどよめき、 川中かはなかにも煮売にうり聲々こゑ/\田楽でんがくさけ諸白酒もろはくざけ汝陽ぢよやうよだれ李白りはくへど劉伯倫りうはくりん巾着きんちやくそこたゝき、猩々せう/\焼石やけいし吐出はきだす。茶舟ちやぶね、ひらだ、猪牙ちよき屋根舟やねぶね