は、諸国の人家を空して来かと思はれ、ごみほこりの空に満るは世界の雲も此処より生ずる心地ぞせらる。世の諺にも、朝より夕まで両国橋の上に槍の三筋たゆる事なしといへるは常の事なんめり。夏の半より秋の初まで涼の盛なる時は、槍は五筋も十筋も絶やらぬ程の人通りなり。名にしおふ四条河原の涼なんどは糸鬢にして僕にも連べき程の賑はひにてぞ有ける。又かゝるそう/\しき中にも恋といへるものゝあればこそ、女太夫に聞とれて、屋敷の中間門の限を忘れ、或はしほ
らしき後姿に人を押わけ向ふへ立まはれば、思ひの外なる㒵つきにあきれ先へ行たる器量を誉れば、跡から来る女連己が事かと心得てにつこと笑もおかし。筒の中から飛出る玉屋が手ぎは、 闇夜の錠を明る鍵屋が趣向、ソリヤ花火といふ程こそあれ、流星、其処に居て見物是に向ふの河岸から橋の上まで、人なだれを打てどよめき、 川中にも煮売の聲々、田楽酒、諸白酒、汝陽が涎、李白が吐、劉伯倫は巾着の底たゝき、猩々は焼石を吐出す。茶舟、ひらだ、猪牙、屋根舟、屋