お江戸のベストセラー

根南志具佐(ねなしぐさ)

原文(四之巻)

根南志具佐 四之巻04

▼開

は、諸国(しよこく)の人(ひと)家(いへ)を空(むなしく)して来(きた)かと思(おも)はれ、ごみほこりの空(そら)に満(みつ)るは世界(せかい)の雲(くも)も此処(このところ)より生(しやう)ずる心地(こゝち)ぞせらる。世(よ)の諺(ことわざ)にも、朝(あさ)より夕(ゆふべ)まで両国橋(りやうごくばし)の上(うへ)に槍(やり)の三筋(みすじ)たゆる事(こと)なしといへるは常(つね)の事(こと)なんめり。夏(なつ)の半(なかば)より秋(あき)の初(はじめ)まで涼(すゞみ)の盛(さかり)なる時(とき)は、槍(やり)は五筋(いつすじ)も十筋(とすじ)も絶(たえ)やらぬ程(ほど)の人通(ひとゞほ)りなり。名(な)にしおふ四条(しでう)河原(がはら)の涼(すゞみ)なんどは糸鬢(いとびん)にして僕(でつち)にも連(つれ)べき程(ほど)の賑(にぎ)はひにてぞ有(あり)ける。又(また)かゝるそう/\しき中(なか)にも恋(こい)といへるものゝあればこそ、女(おんな)太夫(だいふ)に聞(きゝ)とれて、屋敷(やしき)の中間(ちうげん)門(もん)の限(かぎり)を忘(わす)れ、或(あるひ)はしほ

らしき後姿(うしろすがた)に人(ひと)を押(おし)わけ向(むか)ふへ立(たち)まはれば、思(おも)ひの外(ほか)なる㒵(かほ)つきにあきれ先(さき)へ行(ゆき)たる器量(きりやう)を誉(ほむ)れば、跡(あと)から来(きた)る女連(おんなづれ)己(おのれ)が事(こと)かと心得(こゝろえ)てにつこと笑(わらふ)もおかし。筒(つゝ)の中(なか)から飛出(とびで)る玉屋(たまや)が手(て)ぎは、 闇夜(やみよ)の錠(ぢやう)を明(あけ)る鍵屋(かぎや)が趣向(しゆかう)、ソリヤ花火(はなび)といふ程(ほど)こそあれ、流星(りうせい)、其処(そのところ)に居(い)て見物(けんぶつ)是(これ)に向(むか)ふの河岸(かし)から橋(はし)の上(うへ)まで、人(ひと)なだれを打(うつ)てどよめき、 川中(かはなか)にも煮売(にうり)の聲々(こゑ/\)、田楽(でんがく)酒(さけ)、諸白酒(もろはくざけ)、汝陽(ぢよやう)が涎(よだれ)、李白(りはく)が吐(へど)、劉伯倫(りうはくりん)は巾着(きんちやく)の底(そこ)たゝき、猩々(せう/\)は焼石(やけいし)を吐出(はきだ)す。茶舟(ちやぶね)、ひらだ、猪牙(ちよき)、屋根舟(やねぶね)、屋(や)