なりしを浅草の観音、木の松茸と変じ給ひ、汝が身替[り]に立[ち]給へり。此御恩を報ぜんため、是よりはやく国に帰り、道に志[す]と云[ふ]文字取[つ]て志道軒と名を改め、浅草の地内において、をどけ咄に人を集め浮世の穴をいひ尽して随分人を戒べし。汝が咄を聞[く]内にも女あれば人の気浮[か]れ、坊主は慢心あるものなれば、坊主と女の毒を云[ひ]て暫時の内に追[ひ]まくるべし。イザかく来[た]れよとて飛[び]去[る]を藜の杖をとらへて仙人に随ひ行[く]ぞと見えしが、浅草の地内にて葦簀かこひし床の上に茫然として座し
居ければ、参[り]の老若立[ち]つどひ、床几に腰を打[ち]かくれば、彼松茸にて机をたゝき、トン/\/\/\、トトントン/\、とんだ咄の始り/\。