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風流志道軒伝ふうりゅうしどうけんでん

原文(巻之五)

風流志道軒伝 巻之五 14

なりしを浅草の観音、木の松茸とへんじ給ひ、汝が身替[り]に立[ち]給へり。此御恩をほうぜんため、是よりはやく国に帰り、道に志[す]と云[ふ]文字取[つ]て志道軒と名を改め、浅草の地内において、をどけ咄に人を集め浮世の穴をいひ尽して随分人をいましむべし。汝が咄を聞[く]内にも女あれば人の気浮[か]れ、坊主は慢心まんしんあるものなれば、坊主と女の毒を云[ひ]暫時ざんじの内に追[ひ]まくるべし。イザかく来[た]れよとて飛[び][る]あかざつゑをとらへて仙人に随ひ行[く]ぞと見えしが、浅草の地内にて葦簀よしずかこひしゆかの上に茫然ぼうぜんとして座し

居ければ、参[り]老若らうにやく[ち]つどひ、床几しやうぎこしを打[ち]かくれば、彼松茸にてつくえをたゝき、トン/\/\/\、トトントン/\、とんだ咄の始り/\。

風流志道軒伝 巻之五 大尾