風流志道軒伝 巻之四
扨それよりも、浅之進は羽扇にまかせ飛[び]廻りて、北より南へ流たる大河の辺におり立[ち]けるが、草木の形も見なれざるもの多く、川水の色も異なるさまになん見ゆれば、帰国の咄の種にもなるべし、いざや歩行渡[り]してみんとは思ひながら、深き浅きのそこひさへしらぬ国の川なれば、人の渡りを松が根に腰打懸[け]て、向ふをはるかに見渡せば、川の半に人、四五人歩行渡りの体なるが、水は腰にも至らざれば、見懸[け]にも似ず浅き川にぞ有けるとて、裳をかゝげて渡りけるに、其深さ丈にあまれる