莫斯哥米亜、 琶牛、 亜刺敢、 亜尓默尼亜、 天竺、 阿蘭陀を始[め]として其外の国々には、家業をしらぬうてんつ国、髪は本田に銀ぎせる、短羽織に日和下駄、じやうるり、三絃、座敷芸、お花といへる地色に打込[み]、只遊ぶ事を第一とす。しかるに此国折[り]/\は大水出て、親の代より譲請し家業株、町屋敷、諸道具、衣類なんどを押[し]流され、火の降こと度々なり。又其隣国にきやん島といへるあり。神儒仏の教もなく、からだはしぼり染のごとく、はりこみといふ網にてあくたひと云[ふ]魚を取[つ]て肴にし、大酒を呑[ん]できをひ歩行を業とす。
又おそろしき国あり。其名を愚医国といひ、又藪医国ともいふ。此国の人皆頭を丸め、折[り]に惣髪なるもあり。学問を表にかざり人の病を直す事を業とすれども、近年甚[だ]下こんになり、書物を見れば目の先くらみ、尻の下より火焔もえ出[で]、暫時も学問する事ならず。只世間巧者にとばかり心懸[け]、軽薄を常とし、てれんついしやうの妙術をきはめ、羽織は小袖より長く竹輿のすだれはいき杖よりもふとし。牽頭、媒、屋敷の売買、天窓をふり立[て]かけまはり、見へ第一の薬箱も銀かなぐはかゞやけども、中の薬は吟味