我は日本江戸の者にて、深井浅之進と申[す]者なるが、我師風来仙人の教にまかせ諸国の人情をしらんがため、有とあらゆる国々をなん見廻りけるに、此城中の後宮に忍び入[り]、思はずも官女の美なるに心まよひて我本心を失ひし故、師の仙人のとがめにや仙術をこめられし羽扇を焼[か]れて術を失ひ、今ぞ我身を有頂天、かくのごとくの丸裸、馬鹿のむき身と笑[は]れて、異国に恥を残さん事、是非に及[ば]ぬ次第なれば、とく/\刑に行はるべしと、詞すゞしく申[し]上[ぐ]れば、其時帝も群臣も扨々珍しき事かなとて、猶諸国をめぐり見たる事なんど、く
はしく申[し]上[ぐ]べきため、縄をゆるし衣類をあたへ、様々酒肴をもてなして、帝、太子を始[め]として、百官百寮席をつらね、後の方には后よりもろ/\の女官達、日本人の寝言にあらぬ珍しき事聞[か]んとて、翠簾の間に紙なんどはさみつゝ、ひそかにのぞきて聞[き]居給ふ。浅之進、漸[く]心落[ち]着きて、夫より諸国めぐりたる物語をなす事日をかさねければ、諸国の人物、鳥獣、山海の様子まで委物語有[り]ければ、帝甚[だ]叡感あり、世界広しとはいへども、我唐土の五岳につゞける大山は有[る]まじき、と有ければ、浅之進申[し]けるは、仰[せ]の通り諸国の山の内にては