以て飾たる天子の装束を台に載、官女達とり/\に浅之進が帯をとき、装束を着せ替[へ]んとして胸を見れば穴なし。みな/\大に肝を潰、装束打捨[て]逃入[り]けるが、一間の方かしましく、能[き]男とは云[ひ]ながら、㒵容に引[き]かへて思ひの外なるかたわもの、胸に穴さへなき形にて此国の主には存[じ]もよらず。大王様へも姫君様へも此由奏聞有[る]べしとつぶやく聲々聞へければ、浅之進もあきれ居たる所へ此国の大臣来[た]りて浅之進に向[ひ]て曰[く]、汝が容勝れたれば大王迎て子とせんと宣旨ありしかども、只今官女が申[す]にては胸に
穴なきかたはなるよし。都て此国にては智恵あるものは胸の穴広く、智恵なき者は穴せまし、故に穴せまき者なんどは高位には登がたし。況穴なきもの天子にはなしがたければ、是までの約束変改あり、早く国境より追[ひ]払へと大王の勅命なれば、此上あと穿胸国に一日も逗留叶はず、いざこざなしに早立[ち]のけ、と下部はわり竹たゝき立[つ]れば、初の契引[き]かへて妹脊の縁も浅之進は、我胸をさぐり見れども元より少[し]もあなうたてやと、例の羽扇に打乗[り]て、 蝦夷、 琉球はいふに及[ば]ず、 莫臥尓、 占城、 蘇門塔刺、 浡泥、 百兒齋亜、