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風流志道軒伝(ふうりゅうしどうけんでん)

原文(巻之四)

風流志道軒伝 巻之四 08

▼開

り白昼(はくちう)に入[れ]ども、人是を知る者なし。それより足にまかせて数多の宮殿残る方なく見めぐりけるが、後宮に至[り]て打[ち]ながむれば、三千人の官女紅粉をいろどり、雲のびんづら、霞(かすみ)の眉(まゆ)、玉をつらねし美人の粧。昔、久米の仙人は物洗ふ女の木綿(もめん)湯具(ゆぐ)のぴらつきて脛(はぎ)の白く見へしにさへ、通を失ひしためしもあり。かく数多ある美人の中に至りなば、釈迦(しやか)も黄金(わうごん)の涎(よだれ)をながし、達磨の目玉も絹糸(きぬいと)のごとくなるべし。浅之進も心乱[れ]て城外に出[づ]る事を知らず。後宮(こうきう)の隅(すみ)にかくれて夜な/\官女の閨(ねや)へぞ忍びけるが、いつとなく

其噂(うはさ)聞[こ]へければ、いかさま変化(へんげ)の所為ならんと宰相(さいしやう)以下打集(うちあつまり)て評定あり。四方八方燈をてらし寓直(とのゐ)の武士厳重(げんぢう)なれども何事も目にさへぎらず、然れどもかゝる事などは猶やまざりければ、扨は魑魅(ちみ)魍魎(もうりやう)のしはざか、又は日本にてはやると聞[く]、姫路(ひめぢ)におさかべ赤手のごひ、狸(たぬき)のきん玉八畳敷、狐(きつね)が三疋尾が七ッの類ならば、打[ち]ものわざにてかなふまじ、貴僧高僧に命じて御祈(いのり)あるべしなんど評議一決せざる処に、宰相申されけるは、都て魑魅(ちみ)鬼神(きじん)の類ならば足跡なきはづなるに、御庭のところ/\人の足跡