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風流志道軒伝ふうりゅうしどうけんでん

原文(巻之四)

風流志道軒伝 巻之四 12

御役儀を承りて不二山成就したりとも、目利者に見付[け]られ、こゝの所は不出来なり、此岩は付物なんどゝ似せ物師の名を請[け]ん事、末代の恥辱ちぢよくなれば、一まづ日本へ立[ち]帰り不二山の雛形ひながたを取[り]帰るべし。しかし其雛形ひながたも外に仕方も有[ら]ざるべければ、唐土中の紙とのりとを取集とりあつめ、不二山をはりぬきにして此方にてきづきし山にすつぽりと打[ち]きすれば、其たがひ明白ならんといわせも立[て]ず。宰相かぶりを打[ち]ふりて、昔しん始皇しくわうの時、除福ぢよふくといへる大山師が蓬莱ほうらい山に至[り]て不死の薬を求[め]んとて、おこはにかけしためしも有れば、うかつには[み][ま]れず。

其上かゝる大山をはりぬきにするは、紙代等も御時節がらには大そふなれば、出来兼山の子規ほとゝぎす、外に仕方は有まじきやと冠をかたぶけ思案あれば、浅之進すゝみ出[で]、此事気遣ひ給ふべからず、船に乗[り]て行[く]人は皆王の臣下なれば、中々一人の私にて逃[げ]かくれはなるべからず。又不二山をはりぬく事は我に一ッの仙術せんじゆつあり。紙とのりは御入用までもなく、唐土中の郡懸ぐんけんへ公役をかけば大方には揃ふべし。もし不足なる時は、我日の本の恋風や、其扇屋の夕霧より藤屋伊左衛門へおくりたる文をもとめてはりぬきにし、叡覧ゑいらんに備へ奉[ら]ん事、本に正直しやうじき、日天様掛[け]