まづ五岳が随一なれども、我故郷の日本は不二といへる名山あり。其大さ五岳にもはるかまさり、八葉の峰そばだちて四時に雪の消ることなく、何れの国より是を見ても、白扇さかしまに懸[か]ると詩にも作り、なか/\にいふ言の葉もなかりけり。不二の白雪/\なんどゝ哥にも詠じ、風は人穴を出て三千世界を涼[し]うし、雪は麓に落て白酒と成[つ]て旨がらす。五岳なんどのごときは草履取にも不足なりと申[し]ければ、帝大に驚[き]給ひ、昔日本の画工雪舟といへる者、我国に来[り]彼山を画[き]しより、唐土人も三保の原、気の浮島の風景も、我は其意を絵そら
言にて五岳には及[ぶ]まじと今迄は思ひしが、汝が詞を聞[き]しより初[め]て不二の万国の山にまさりたるを知れり。我も四百余州をたもてば何に不足もなけれども、不二山ばかり日本にまけたる事、無念類は中橋なれば、是より諸国へ申[し]付[け]、多くの人歩を呼[び]寄[せ]て不二山を築せて後世に名を残すべし。汝は彼山を能[く]見覚へつらんなれば、科をゆるして奉行となすべし。五岳の内何れの山にても、見立次第基として不日に不二山を築べしとの勅命、浅之進謹で、私日本に生[ま]れたれば、不二の形あらましは覚えたれども、委事は存ぜされば