もせず、牛膝は牛の膝と覚え、鶴虱には鶴のしらみを尋るといふ、古人の詞に違ひなき笑止千万なる国にぞ有ける。又四角四面なる国あり、其名をぶざ国といひ、又しんござ国とも云[ふ]。此国の人、面大にして国なまりをいひちらし、他国より来し者におほへいをいへば能[き]事と心得、しつぶかくして女郎にきらはれ、陰で笑はるゝを知らざる程愚なる国なり。又いかさま国となんいへる所に至れば、此国の人寄集舟に乗[り]て漕出し、樗蒲一島といふ島へ連行、目の一より六ッある猛獣に喰付[か]せて裸にせんと謀ければ、浅之進も早々にぞ逃
帰[り]けり。かく様々の苦労艱難、世界中の国々島々残る所なく廻りければ、羽扇の妙ありとはいへども元気も足も労れければ、朝鮮に至[り]て人参のぞうすいを喰ふ事二月ばかり、又足を休[め]んにくつきやうのことありとて、夜国に寝ること半年余にして草臥も直りければ、また羽扇に打乗[り]て唐土へとこゝろざし、清朝の主、乾隆帝の住[み]給ふ北京になん至[り]けるに、広き事類なく繁華詞にも及[ぶ]べからず。いざや城中に入[り]てながめんとて彼羽扇を脊に負へば、忽に影ぼうしもなく水鏡も見えざれば、しすましたりと笑を含て、大門よ