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風流志道軒伝(ふうりゅうしどうけんでん)

原文(巻之四)

風流志道軒伝 巻之四 02

▼開

川なれば、はかなくも押[し]流され、浮[き]つ沈[み]つ苦(くるしみ)て、既に命も危かりしが、其時また羽扇を取[り]て、さかまく水をかきわれば水は八方へ退[き]て、さながら平地を行[く]がごとく向[う]の岸(きし)にぞ着[き]たりけり。去[る]にても彼渡りし人は、いかゞなりつらんと打見れば、此国は長脚(ちやくきやく)国とて体(からだ)は日本人程なれども、足の長さ一丈四、五尺なれば、此川水には流(ながれ)ざるも断([ことわり])なり。扨また彼足長どもは、川中にて浅之進が羽扇の妙ある事を見て、何とぞして奪(うばひ)取[ら]んと、打寄[り]て評定をなんしけるが、中々卒尓(そつじ)には取[り]がたしとて、其隣国の長臂(ちやうひ)国といへるは、手の長さ一丈四、五尺にて

常に盗を事とすれば、此者どもをかたらひて羽扇を奪[ひ]取[ら]んぞ計らひける。此事浅之進は夢(ゆめ)にもしらず川渡[り]の難儀に労(つか)れければ、道の辺の茶店に立寄[り]座敷を借[り]て、屏風引立[て]前後も覚えず臥(ふし)居たりしが、何かは知らず物音にふと目覚して打見れば、上なる引窓(ひきまど)より其長さ丈にあまれる細き腕(うで)を指[し]入[れ]て、羽扇をつかんで引上[げ]る。スハ曲(くせ)者ござんなれ、扨は鳥羽絵(とばゑ)の茨木(いばらき)童子(どうじ)、中々羽扇は渡辺の綱が昔もまつかうと、懐剣(くわいけん)をぬきはなち、腕(うで)を丁ど切落せば、それより四方さわがしく責鼓(せめつゞみ)鯨波(ときのこゑ)、天地も崩(くづ)るゝばかりなれば、スハヤ