飛[び]行けるが、また大なる国あり。此国は穿胸国とて、男女とも押[し]なべて皆胸に穴あり。貴人他所へ行[く]にも竹輿乗物はなくして、其胸の穴へ棒を通してかきありけどもいたまず、辻々には賎者ども棒をたづさへて通りを待[ち]、人をみれば棒やらふ/\となんいへる事、日本のかごやらふといふがごとし。浅之進もかゝれてみんとは思へども、胸に穴なければすべきやうなく、段々奥へ行[く]に随ひて家居も多く賑なれども、流石夷国にて、人がらは皆賎さまなれば、浅之進を見て上下男女立[ち]つどひ、扨も珍しき風俗、かゝる男の又あるべきにやと引[き]もきらずの人
だかり。日を経るに随[ひ]て国中此沙汰かくれなければ、此国の大孔王の耳に入[り]、官人を以て浅之進を召[さ]れけるに、朝廷の群臣、皆浅之進が容貌の美なるをぞ感じける。此大王に男子なく当年十六歳の姫宮一人まし/\けるが、浅之進の器量を見給ひ、姫君も大王も此者を婿と定め此国を譲あたへんと、群臣をも呼[び]集[め]て、さま/\評定有けるが、大王の勅命[ちよくめい]といひ姫君の恋人なれば、皆然るべしと万歳を唱、いそぎ浅之進をむかへ装束を改[め]んとて、多くの官女達立[ち]つどひ一間なる所へ伴行、いろ/\の綾錦に金玉を