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風流志道軒伝(ふうりゅうしどうけんでん)

原文(巻之四)

風流志道軒伝 巻之四 09

▼開

残れるはいぶかしゝ、是にこそてだて段々有馬山、油断する所にあらずと、間ごとの入口に細なる砂を散[ら]し置[き]、寓直(とのゐ)の武士、懐中(くわいちう)火把(たいまつ)を持[ち]て忍びてなん窺ひ居ける。浅之進はかゝる事は露白波(つゆしらなみ)の恋の関守(せきもり)うちもねなゝんとつぶやきて、彼羽扇にて身を隠[し]一間なる所へ忍行[く]に、容(かたち)はさらに見へざれども、散り置[き]たる砂の上、足跡の付[く]をめどにして、忍[び]居たる寓直(とのゐ)の武士、彼火把(たいまつ)をなげかくれば、飛[ば]んとする間もあらむざんや、惣身に火付[き]て燃(もへ)上[が]れば、浅之進すべき様なく急ぎ帯を引[き]ほどきつゝ裸(はだか)になりて飛[び]出[づ]る内、羽扇も小袖も

一時にみな/\灰とぞ成[り]たりければ、丸裸(はだか)の浅之進が姿忽然(こつぜん)とあらわれて、始[め]て人目にかゝりければ、寓直(とのゐ)の武士おり重[な]り高手小手にいましめて、帝の前に引[き]出[だ]す。されば楽極[り]て悲生ずるとはかゝる事をや云[ふ]なるべし。宮中にては、ひそかに契(ちぎり)て浅之進が身の上を知[り]たる官女は、扨もむざんの事なりと忍び涙(なみだ)に袂(たもと)をしぼり、又事あらはれなば、いかなる目にか逢[は]なんと心安からざるも多かりけり。帝王(ていおう)は浅之進を御覧ありて、彼が人となりを見るに、其容貌(ようぼう)賤[し]からざる者の、何故かゝる術(じゆつ)をなして我後宮(こうきう)へ忍び入[り]たりやと尋[ね]給へば、其時浅之進、頭を振[り]上[げ]