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風流志道軒伝ふうりゅうしどうけんでん

原文(巻之三)

風流志道軒伝 巻之三 01

風流志道軒伝 巻之三

天神七代の始は男女おとこおんなの道をしらざれば、男色なんしょくばかりをたのしみて、甚[だ]窮屈きうくつなる世界なりしが、伊弉諾いざなき伊弉冊いざなみ二神ふたばしらあま瓊矛ぬぼこ指下さしをろしてめつたむしやうに滄海あをうなばらかきさぐりしかば、其ほこさきより滴瀝したゝれ潮凝しほこりて焼塩となる。是よりして、からき浮世といふ事始[り]ける。此時始[め]合交みとのまぐはへせんとするに其みちをしらず、時に鶺鴒にはくなぶり[び]来て其尾をぴこ/\うごかすを味噌豆に研槌すりこぎ擂盆すりばち、始[め]とつぎの道を得たりと、今時そんな野夫やぼな事にはあらず。書物のとぢ目に生ずる