白魚、肌着の縫合の花見虱まで、いきとし生るものみな陰陽の形あり、形有て後、此交をなすこと天然自然の道理なれば、其後の若イ者はつがもない、脊令ぐらいを先生には頼ず。去程に浅之進は駿河台の庵を立出[で]、何心なふ通りけるに、かたへより竹輿やろふ/\の聲々を聞流して打[ち]通れば、跡から頬かぶりせし男、ちよこ/\走[り]にて追掛け小聲に成[つ]て、旦那土手までやりませふとなんいへるに心付[き]て、名にしをふ吉原のさんや堤の土手ならば渡に舟と打[ち]うなづき、乗[ら]ふののゝ字を半分
聞[く]と、ソレ棒組といふ間もなく、竹輿すへる、乗[る]、かき上[げ]る、コリヤサ/\の掛聲は、さわたる雁か洋漕船、ふらり/\と居眠の寝耳へはいる暮六も、鐘は上野か浅草を過る間もなき千里一はね、是も偏に通ふ神の竹輿よりをりてすそ打[ち]はらい、少し繕ふ衣紋坂、まだ知ル人も中の町、茶屋が内に着[き]ければ夫婦は槌でにわかのもてなし、ソレお茶よ煙草盆、今日初[め]ての客なれば、どんな加減か白魚の吸ものに柚子、匂ひはかはらねど外よりは何となう酒も一入味よく、亭主は機嫌取肴にみせの出[づ]るを待合の辻、色の上