お江戸のベストセラー

風流志道軒伝(ふうりゅうしどうけんでん)

原文(巻之三)

風流志道軒伝 巻之三 02

▼開

白魚(しみ)、肌着(はだぎ)の縫合(ぬひめ)の花見虱(しらみ)まで、いきとし生るものみな陰陽の形あり、形有て後、此交をなすこと天然自然の道理なれば、其後の若イ者はつがもない、脊令(せきれい)ぐらいを先生には頼ず。去程に浅之進は駿河台の庵を立出[で]、何心なふ通りけるに、かたへより竹輿(かご)やろふ/\の聲々を聞流して打[ち]通れば、跡から頬(ほう)かぶりせし男、ちよこ/\走[り]にて追掛け小聲に成[つ]て、旦那土手までやりませふとなんいへるに心付[き]て、名にしをふ吉原のさんや堤の土手ならば渡に舟と打[ち]うなづき、乗[ら]ふののゝ字を半分

聞[く]と、ソレ棒組(ぼうぐみ)といふ間もなく、竹輿(かご)すへる、乗[る]、かき上[げ]る、コリヤサ/\の掛聲は、さわたる雁(かり)か洋漕(おきこぐ)船、ふらり/\と居眠の寝耳(ねみゝ)へはいる暮六も、鐘(かね)は上野か浅草を過る間もなき千里一はね、是も偏(ひとへ)に通ふ神の竹輿(かご)よりをりてすそ打[ち]はらい、少し繕ふ衣紋(ゑもん)坂、まだ知ル人も中の町、茶屋が内に着[き]ければ夫婦は槌(つち)でにわかのもてなし、ソレお茶よ煙草盆(たばこぼん)、今日初[め]ての客なれば、どんな加減(げん)か白魚の吸ものに柚子(ゆず)、匂ひはかはらねど外よりは何となう酒も一入味よく、亭主は機嫌取肴にみせの出[づ]るを待合の辻、色の上