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風流志道軒伝ふうりゅうしどうけんでん

原文(巻之三)

風流志道軒伝 巻之三 07

川、にごらぬ水の清水坂。二条、七条、八坂の前、またも遊びにかうだい寺、嵐になびく柳風呂ふろ壬生みぶ、天龍寺、御㚑ごりやうの前、西石垣のはてまでも、其よしあしは難波津に、今を春べとさかりなる、松、梅の全盛ぜんせいは新町に色香いろかをあらはし、白人芸子の今様めけるは、南北に風情をたゝかはす。ねたみ曽根崎、島の内、恋の坂町登詰のぼりつめかくせど出[づ]るいろは茶や、ちりぬる客をつり寄[す]る、目もとの塩町こつぽりと、たまらぬ味の安治川に、深くはまりし堀江大路地、次第に高津新地より、我を忘[れ]て神明前、何ほど広きのど町でも、柳小路と身はせまり、何としやうまん一家には、

七里けんぱい八軒屋、我身の難波新屋敷。れいふ、尼寺あまでら、真田山、浮名うきなをかぶる編笠茶屋、穴に間近まぢかへそが茶屋、六拾四文あり合町。ぜうゆうじ、福ぜんじ、裏/\に住[む]夜発やほつ繁昌はんじやう、そふじや境に千守ちもりより、奈良の木辻に登[り][め]ては、身代をたゝき込[み]撞木しゆもく町から墨染の、花なき枝の柴屋町、室津むろつの泊、とも、をのみち。みたらい、からうと、上の関、行来いきいせこいせのなまりには、さりとは安芸の宮島に太夫の全盛ぜんせい。後から指懸さしかけられしかささぎの、渡せる橋におく下の関、恋に跡先しらぬ火の、つくしに遊ぶ浦/\は、博多はかた、鳴子に馬の庄、異国いこくの人にもまるれば、角のとれたる丸山に、ちんぷん