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風流志道軒伝ふうりゅうしどうけんでん

原文(巻之三)

風流志道軒伝 巻之三 06

つかるればやすみ、やすめば行[き]、物うき旅の忘草、宿屋の出女おじやれがふすもりかほに、くづとうどん粉の七分まじつた下り白粉を所まだらに打[ち]ぬり、頬紅ほうべにはまん丸にて、那須なすの与市に見せたらば、日の丸かと心得てよつぴき兵とはなつべき、顔つき出してしやべりちらせば、大象も能[く]つながれ、秋の鹿も必[ず]よる。されば道中宿屋の女をおじやれと名付[け]し其いはれは、旅人其家に泊[り]てつれ/\にたへかねて、晩にとぎにおじやれといへば、こそ/\と寝に来る故、其名をおじやれとなんいへる。おじやれといふは来いと云[ふ]と、お出[で]といふの間にて

来やれといふより三、四文かた慇懃いんぎんなる詞なりと、業平なりひら東下あづまくだりの記、虚言うそ八百巻目に見えたり。金川大磯、御油ごゆ、赤坂。吉田、岡崎、二丁町。古市、山田は云[ふ]に及[ば]ず、浦賀、下田、鳥羽、あのり。長嶋、田部たなべ印南いなみには腰掛、加の立柱、色のみなと多き中にも、出口の柳こきまぜし、花の都の島原より、祇園の気色宮川町、縄手なわてに我身をしばられて、跡の紋日の請合も、約束かたき石垣町、おられぬ内野新地より、さわぎに北野七間の、隠所はやぶの下、鳴[か]でこがるゝ蛍茶屋、尻の方から灯す火も、暮る頃より今出