労れば休、やすめば行[き]、物うき旅の忘草、宿屋の出女がふすもり顔に、葛とうどん粉の七分まじつた下り白粉を所まだらに打[ち]ぬり、頬紅はまん丸にて、那須の与市に見せたらば、日の丸かと心得てよつぴき兵とはなつべき、顔つき出してしやべりちらせば、大象も能[く]つながれ、秋の鹿も必[ず]よる。されば道中宿屋の女をおじやれと名付[け]し其いはれは、旅人其家に泊[り]てつれ/\にたへかねて、晩に伽におじやれといへば、こそ/\と寝に来る故、其名をおじやれとなんいへる。おじやれといふは来いと云[ふ]と、お出[で]といふの間にて
来やれといふより三、四文かた慇懃なる詞なりと、業平東下の記、虚言八百巻目に見えたり。金川大磯、御油、赤坂。吉田、岡崎、二丁町。古市、山田は云[ふ]に及[ば]ず、浦賀、下田、鳥羽、あのり。長嶋、田部、印南には腰掛、加太の立柱、色の湊多き中にも、出口の柳こきまぜし、花の都の島原より、祇園の気色宮川町、縄手に我身をしばられて、跡の紋日の請合も、約束かたき石垣町、おられぬ内野新地より、さわぎに北野七間の、隠所は藪の下、鳴[か]でこがるゝ蛍茶屋、尻の方から灯す火も、暮る頃より今出