通り者といふ。されば女郎買と灰吹は青い内が賞翫とは近松が名言なりと、浅之進は吉原を立出[で]、男色を試[み]んとて、それより堺町へ至[り]けるに、是又別世界の一風流、金剛が挑灯には名代の紋を先にてらし、大振袖の羽織、恋風に翩翻とひるがへり、見し編笠の内ぞゆかしき、紫帽子は舞台へ出[づ]るゆるしの色となん。人の物好は面の異なるがごとくなればこそ、稚あり長あれども、それ/\の相手あるが中にも四十過[ぎ]ての振袖、頬髭の跡青ざめたるも見ゆ。是等を翫人は好の至れるなりと自味噌は上れども、
火吹竹のあえものは笋の和なるにはしかじ。木挽町に引[か]るゝ客は、身代は大鋸屑のごとく、神明参の帰足は本地垂迹の両道になづむ。湯島の二階は千里の目を極、英町の向側は隣よりもまた近し。よごれをふくかやば町、眇眼もまじる神田の明神、外になければ市ヶ谷の八幡前、天満神のあたり近き室咲の梅手折[ら]んと、麹町には寝るをたのしむ。土気の取[れ]ぬ土橋より一ツ目山猫なんどいへるは、さながら化物の名に近し。莠の苗を乱り、紫の朱を奪ふ、所かはれば品川の風流女護が島の辻番