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風流志道軒伝ふうりゅうしどうけんでん

原文(巻之四)

風流志道軒伝 巻之四 03

大事と身をかため走[り]出て見渡せば、数十万の足長ども手長人をせなに負[へ]ば、手も長く足も長く、其高さ三丈ばかりも有[る]者ども、十重廿重に取[り][き]て、稲麻とうま竹葦ちくいと居並べば、たとへ羽扇の妙ありとも中々悪く飛[ば]んとせば、ちうにて引抓ひつつかまれんは定なれば、身の一大事此時と心の内に仙人を念じ、つか/\とはせ[り]て、かのすね長が向ふずね、羽扇を以て打[つ]て廻れば、只さへ長き足なるに手長人を背負せをふたれば、竿をたをすがごとくにて、かたはしより打[ち]たふせば、残る者ども一同に大手をひろげて取[ら]んとすれど、めつたに長きばかりにて、振廻し不調法

なる腕なれば、左へくゞり右へぬけ、終に数万の手長足長一人も残さず打[ち]たふし、浅之進は羽扇に打[ち][り]雲間に入[り]て見おろせば、手長どもはほう/\に高ばひをして逃去にげされども、足長はたふれる時は自[ら][き]る事ならざるものゆへ、皆腰に太鼓たいこを付[け]て、こければ其太鼓をたゝくに、常は外より人来て大船の帆柱ほばしらたてるごとく、轆轤ろくろにてまきおこせども、みな/\たふれし事なれば、只其儘にあがく体、捨置[け]餓死うゑしなんとて羽扇を以てぱつとあをげば、たふれ居たる数万の足長、一度にすつくと立[ち]あがり、茫然ぼうぜんたるを見捨[て]つゝ、四、五千里も