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風流志道軒伝ふうりゅうしどうけんでん

原文(巻之五)

風流志道軒伝 巻之五 04

女なり。此島のおきてにて、外より流[れ]来るあれば、船よりくがへ上る時、国中の女立出[で]磯辺いそべ草履ぞうりを直し置[き]、其草履をはきたる者と夫婦ふうふとなる法なれども、はるかへだてし島なれば、是まで人のながれ来る事もなきに、此度船の漂着ひやうちやくせしは天のあたへと悦[び]いさみ、皆々浜辺はまべに立出[で]て、前後をあらそひ草履を直せば、浅之進を始[め]として百余人の唐人ども、面々草履をはきつれてくが珍しく立出[づ]れば、はかれし者は取[り]すがりて、こんなえにしが唐にもあろかと、なれ/\しく悦びいさみ、はづれしものは浦山うらやましくこゑ

/\にさわぎければ、此国の帝王ていわうより役人来[た]りて、御用なるよし、百余人の者どもを一人も残らず竹輿かごに乗せ城内へ連行つれゆきければ、大勢の女共は闇夜やみよにへそをぬかれしごとくうつとりとして居たりしが、打寄[り]て相談しけるは、此島にそだつ者、上つ方も下ざまも男のほしきは同じ事なり。いかに御威光いこうなればとて、残[ら]ずお上へ取上[げ]給ふは、扨々つれなきなされ方、我々生[き]て何かせんと、皆一同に連判れんばんして、国中の者一人も残[ら]ず城外へつめかけて、男を返し給ふべし、左もなくば此城一ッ責破せめやぶりて目に物見せん、彼日本に名の高きともへ