女なり。此島の掟にて、外より流[れ]来るあれば、船より陸へ上る時、国中の女立出[で]て磯辺に草履を直し置[き]、其草履をはきたる者と夫婦となる法なれども、はるかへだてし島なれば、是まで人の流来る事もなきに、此度船の漂着せしは天のあたへと悦[び]いさみ、皆々浜辺に立出[で]て、前後をあらそひ草履を直せば、浅之進を始[め]として百余人の唐人ども、面々草履をはきつれて陸珍しく立出[づ]れば、はかれし者は取[り]すがりて、こんなえにしが唐にもあろかと、なれ/\しく悦びいさみ、はづれしものは浦山しく聲
/\にさわぎければ、此国の帝王より役人来[た]りて、御用なるよし、百余人の者どもを一人も残らず竹輿に乗せ城内へ連行ければ、大勢の女共は闇夜にへそをぬかれしごとくうつとりとして居たりしが、打寄[り]て相談しけるは、此島にそだつ者、上つ方も下ざまも男のほしきは同じ事なり。いかに御威光なればとて、残[ら]ずお上へ取上[げ]給ふは、扨々つれなきなされ方、我々生[き]て何かせんと、皆一同に連判して、国中の者一人も残[ら]ず城外へ詰かけて、男を返し給ふべし、左もなくば此城一ッ責破て目に物見せん、彼日本に名の高き巴、