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風流志道軒伝ふうりゅうしどうけんでん

原文(巻之五)

風流志道軒伝 巻之五 06

[び]てとりてとなん改めつゝ、其外は何事も皆吉原を学びて、太夫より、かうし、さんちや、下唐人は河岸かしへ追[ひ]やり、引[つ]ぱりみせまで出[だ]しけり。衣類も様々工夫しけるが、兎角とかく日本の風俗が女の気に入[り]たりとて、唐人共を元服げんぷくさせ巻上まきあげびんに長羽織、紅白粉べにおしろいにて形を粧ひ、黄昏たそがれも過[ぐ]る頃、すゞの音聞[こ]ゆるを相図にづらりと店に居並[び]て、燈くわつとてり渡れば、待[ち]もふけたる女客、格子にかほをおしあてゝ、何れああめと引[き]ぞわづらふ其内に、二階へ上る客もあり、又は茶屋付、揚屋入、つい禿かぶろに日がらかさ、羽織のゑりもしど

けなく、つかみからけの八文字、押[し]わけられぬ人だかり。此国開[け]てこのかた咄にも聞[か]ざれば、まして見る事は猶初なり。遊男を買[ひ]て遊[ば]んとて上を下へとこみ合[ひ]て、押[し]もきらぬ女客、初会も程なくなじみとなり、もらひのもめ、もの日の約束、いつしか客もすいに成[り]て、立ひき、いきはり、のく、切るの気味合事まで、さして替れる事もなし。只世上の女郎にことなる事は、袖とめ、かね付の世話なきのみにてぞ有ける。浅之進を初め唐人どもは始[め]の程は面白き事いふばかりなく、天上の栄花ゑいぐわも是にはしかじと、故郷の