呼[び]てとりてとなん改めつゝ、其外は何事も皆吉原を学びて、太夫より、かうし、さんちや、下唐人は河岸へ追[ひ]やり、引[つ]ぱりみせまで出[だ]しけり。衣類も様々工夫しけるが、兎角日本の風俗が女の気に入[り]たりとて、唐人共を元服させ巻上鬢に長羽織、紅白粉にて形を粧ひ、黄昏も過[ぐ]る頃、鈴の音聞[こ]ゆるを相図にづらりと店に居並[び]て、燈くわつと照渡れば、待[ち]もふけたる女客、格子に顔をおしあてゝ、何れああめと引[き]ぞわづらふ其内に、二階へ上る客もあり、又は茶屋付、揚屋入、対の禿に日がらかさ、羽織のゑりもしど
けなく、つかみからけの八文字、押[し]わけられぬ人だかり。此国開[け]てこのかた咄にも聞[か]ざれば、まして見る事は猶初なり。遊男を買[ひ]て遊[ば]んとて上を下へとこみ合[ひ]て、押[し]もきらぬ女客、初会も程なくなじみとなり、貰のもめ、もの日の約束、いつしか客も粋に成[り]て、立ひき、いきはり、のく、切るの気味合事まで、さして替れる事もなし。只世上の女郎に異なる事は、袖とめ、かね付の世話なきのみにてぞ有ける。浅之進を初め唐人どもは始[め]の程は面白き事いふばかりなく、天上の栄花も是にはしかじと、故郷の