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風流志道軒伝ふうりゅうしどうけんでん

原文(巻之五)

風流志道軒伝 巻之五 08

からだ金鉄きんてつにてや有けん、少[し]も元気おとろへざりけり。浅之進もつく/\と我身の上を観ずれば、かく一人生[き]残れども身請せらるゝ事もなく、一生勤[め]死にしても末のつまらぬ事なり。日頃面白かりし色遊いろあそびも常になりてはうるさきものと、女郎、冶郎やろうの身の上までを思ひやり、あじきなき世の有様と思ひつゞけて居眠いねむる[り]から、何国ともなく風来仙人忽然こつぜんとあらはれ出[で]あかざつゑを以て浅之進を打[ち]すゑれば、浅之進誤入あやまりいり面目めんぼくもなくひれふしけり。 其時仙人こゑをあげ、それ人世の中に有ては功成こうなり

とげて身しりぞくは、春夏にさかへし草木の秋冬にしぼむがごとく、是即[ち]天の道なり。范蠡はんれいが五にのがれ、張子房ちやうしぼう赤松子せきせうしたくせしは、進退しんたいの時をしりたる古今に類なき智者の手本。また千里の馬たりとも伯楽はくらくを得ざる時、しいて功を立[て]んとするは、夏日に氷を求[む]るに似たり。たとへわづかに出来たりとて、室咲むろざきの梅の色香いろかうすく、しかもさかり久しからざるがごとし。或はまた君を得るとも其身にたかのうあるもの、摺餌すりゑ蒔餌まきゑにてかはんとせば、かごはなれて飛[び][る]べし。雲に入[る]勢ありとも其身うゑに至りな