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風流志道軒伝(ふうりゅうしどうけんでん)

原文(巻之五)

風流志道軒伝 巻之五 08

▼開

体(からだ)金鉄(きんてつ)にてや有けん、少[し]も元気おとろへざりけり。浅之進もつく/\と我身の上を観ずれば、かく一人生[き]残れども身請せらるゝ事もなく、一生勤[め]死にしても末のつまらぬ事なり。日頃面白かりし色遊(いろあそび)も常になりてはうるさきものと、女郎、冶郎(やろう)の身の上までを思ひやり、あじきなき世の有様と思ひつゞけて居眠(いねむる)折[り]から、何国ともなく風来仙人忽然(こつぜん)とあらはれ出[で]、藜(あかざ)の杖(つゑ)を以て浅之進を打[ち]すゑれば、浅之進誤入(あやまりいり)、面目(めんぼく)もなくひれ伏(ふし)けり。 其時仙人聲(こゑ)をあげ、それ人世の中に有ては功成(こうなり)名

遂(とげ)て身しりぞくは、春夏にさかへし草木の秋冬にしぼむがごとく、是即[ち]天の道なり。范蠡(はんれい)が五湖(こ)にのがれ、張子房(ちやうしぼう)が赤松子(せきせうし)に托(たく)せしは、進退(しんたい)の時をしりたる古今に類なき智者の手本。また千里の馬たりとも伯楽(はくらく)を得ざる時、強(しい)て功を立[て]んとするは、夏日に氷を求[む]るに似たり。譬(たとへ)わづかに出来たりとて、室咲(むろざき)の梅の色香(いろか)薄(うす)く、しかも盛(さかり)久しからざるがごとし。或はまた君を得るとも其身に鷹(たか)の能(のう)あるもの、摺餌(すりゑ)蒔餌(まきゑ)にて畜(かは)んとせば、籠(かご)を離(はなれ)て飛[び]去[る]べし。雲に入[る]勢ありとも其身餓(うゑ)に至りな