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風流志道軒伝ふうりゅうしどうけんでん

原文(巻之五)

風流志道軒伝 巻之五 03

風にをあげて、日本間近くなりける時、待[ち]もふけたる事なれば、黒雲八方よりおほひかゝり方角さらにしれざれば、数百万の唐人どもうろたへまはる折からに、雨風はげしく吹[き][た]り。三十万そうの唐船を一ッ所へ吹[き][せ]て、只一もみにもみくだけば、数十万人の唐人共海中に飛[び][り]て、水練すいれん秘術ひじゆつを尽せども、三十万艘の大船に積置つみおきたるのりと紙、一度に海へ入[り]たれば、さしもに広き洋海やうかい紙漉かみすきの箱を見るがごとく、とろり/\とねばりければ、もちにつきたるはいのごとく、皆あら波に打込[ま]れ、数もかぎらぬ唐人ども、白あえとなりて死たるはむざん

なりける事どもなり。爰に一ツのあり。浅之進が乗[り]たる船は、日本人のありし故にや、かゝる風雨の中ても船は少[し]もいたみもなく、何ちともなく吹流ふきながされ、ゆらり/\と大船の思ひ頼[ま]ん方もなく、風にまかせてたゞよひしが、覚えずも日を重[ね]かても水もつきんとすれば、いきたる心もあら波の向[ふ]を見れば一の島あり。初[め]蘇生よみがへりたる心地にて、島を目あてにこぎ寄れば、此島は女護によごが島とて、男は一人もなくして女ばかり住[め]る国也。子を産[ま]んと思ふ時は、日本の方に向ひて帯をとき風を請[く]れば懐胎くわいたいして又女子をうむ。王もあれども皆