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風流志道軒伝ふうりゅうしどうけんでん

原文(巻之五)

風流志道軒伝 巻之五 05

板額はんがくにはあらずとも、女の念力岩とほすと聲々に呼[ば]はりて、うらみの気天地にみつれば、みかども大にもてあまし、如何せんと評定ありしを浅之進申[し]けるは、所詮しよせん百人ばかりの男にては国中の者あらそひて、上へ取[れ]ば下うらみ、下へ行[け]ば上うらみなば、是乱世のもとゐなるべし。我に一ッの工夫有[り]。唐にても日本にても女郎屋といふ事あれば、此上は私共百余人の者、申[し]合せ女郎のごとく店を出し、なさけの道を商ふべし。しかる時は此国の人、貴賎きせん上下のわかちなく、金次第にて来るべければ、互にうらみそねみもなし、此儀如何と申[し]ければ、是はよろしかるべしとて、それより

其旨ふれければ何れも大に得心して、国中の女どもかこみとい引退しりぞく。扨都の北に当りてしかるべき土地を見立[て]、四方には堀をほり、茶屋、揚屋より諸商人の家々まで不足なくたてならべ、一方の入口には大門を拵[へ]て、くるわ中の男は外へ出[で]ざる為にとて、関所せきしよのごとくに番人を付置[き]、浅之進を始[め]として、彼百余人の唐人を五人、十人引[き]わけて家々に店を出す。されば、女なれば女郎といひ、また遊女などゝいへども、是は男の傾城けいせいなれば、其名を男郎なんろうよび、また遊男ゆうなんとぞ名づけ、又年の寄[り]たるは、やりての役を勤[む]れども、是も男の事なれば其名を