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風流志道軒伝ふうりゅうしどうけんでん

原文(巻之五)

風流志道軒伝 巻之五 09

ば、却[つ]てすりゑにて事足れりとする、すゞめ天告子ひばりにもおとるべし。たかは死すともはつまず、主の目はぬき食ふべからず。すみやかに世をのがるべし。但山林にかくるるばかりをかくるるとは云[ふ]べからず、大隠たいいん市中しちうにあり。其かくるゝ事一にあらず、賣卜ばいぼくにかくれ、に隠れ、詩にかくれ、哥に隠れ、東方朔とうぼうさくは世を金馬門きんばもんにのがる。我汝にをしゆる世界せかいの人情をしりたる上にて、世を滑稽こつけいの間にさけよと教[へ]しに、汝物にふれて心うごきし故、却[つ]て難儀なる事度々に及べり。人の浮世にまじはることは、只銭湯せんとうに入[る]がごとし。げかれしゆへはいる事は其

穢を請[け]ん為にあらず、けがれを以て穢を落し、掛湯かゝりゆをして出[で]たる時、我身はいつも清浄しやう/\なり。此理を以て世に交らば、我かたはら袒裼たんせき裸裎らていすとも何ぞ我をけがさんや。汚泥をでい蓮花れんげそめざるは、くりにすれどもくろまざるの理なり。しかるに世の人、物の為にとらかさるゝが故に我身をそこなひ家をやぶる。遊女狂ひにとらかさるゝばかりをとらかさるゝとは云[ふ]べからず。何事もなづめばがいあり。汝こそ世界中の国々島々をめぐりて能[く]見覚へつらん。何れの国に至りても君臣、父子、夫婦、兄弟、朋友の五の道