ば、却[つ]てすりゑにて事足れりとする、雀、天告子にもおとるべし。鷹は死すとも穂はつまず、主の目はぬき食ふべからず。速に世をのがるべし。但山林に隠るばかりを隠るとは云[ふ]べからず、大隠は市中にあり。其かくるゝ事一にあらず、賣卜にかくれ、医に隠れ、詩にかくれ、哥に隠れ、東方朔は世を金馬門にのがる。我汝に教も世界の人情をしりたる上にて、世を滑稽の間にさけよと教[へ]しに、汝物にふれて心動し故、却[つ]て難儀なる事度々に及べり。人の浮世にまじはることは、只銭湯に入[る]がごとし。穢しゆへはいる事は其
穢を請[け]ん為にあらず、けがれを以て穢を落し、掛湯をして出[で]たる時、我身はいつも清浄なり。此理を以て世に交らば、我側に袒裼裸裎すとも何ぞ我をけがさんや。汚泥の蓮花を染ざるは、涅にすれども緇まざるの理なり。しかるに世の人、物の為にとらかさるゝが故に我身をそこなひ家を破。遊女狂ひにとらかさるゝばかりをとらかさるゝとは云[ふ]べからず。何事もなづめば害あり。汝こそ世界中の国々島々をめぐりて能[く]見覚へつらん。何れの国に至りても君臣、父子、夫婦、兄弟、朋友の五の道