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風流志道軒伝ふうりゅうしどうけんでん

原文(巻之五)

風流志道軒伝 巻之五 11

表にかざり、ちんぷんかんの屁をひつても知行の米をしやうますではかり切で渡されなば、其時却[つ]て聖人をうらむべし。だれやらが制札の多きをみて国の治らざるをしりたりと云[ふ]がごとく、みだれて後にをしへは出来、病有[り]て後に医薬いやくあり。唐の風俗は日本と違ふて、天子が渡り者も同然にて、気に入[ら]ねば取替[へ]て、天下は一人の天下にあらず、天下の天下なりとへらず口をいひちらして、主の天下をひつたくる不らち千万なる国ゆゑ、聖人出[で]て教[へ]給う。日本は自然に仁義を守る国故、聖人出[で]ずしても太平をなす。唐は

文化ぶんくわにとらかされて、国を韃靼たつたんにせしめられ四百余州が罌粟けし坊主ぼうずに成[つ]ても、みづから大清たいしんの人と覚へて、鼻をねぶつて居る様な大腰ぬけのべらぼうどもなり。日本にも昔より清盛きよもり高時たかときがごとき悪人有[り]ても、天子に成[ら]ふとは思はず。日本で天子を疎略そりやくにすると、慮外ながら三尺の童子どうじもだまつて居ぬ気に成[る]といふは忠義正しさ国ゆゑなり。夫故にこそ天子の天子たるものは世界中にならぶ国なし。唐の法が皆あしきにはあらず、されども風俗に応じて教[へ]ざれば、又却[つ]がいあり。日本人は小人島を虫のごとく思へば、また大人は