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風流志道軒伝(ふうりゅうしどうけんでん)

原文(巻之一)

風流志道軒伝 巻之一 12

▼開

もち、女の子、三絃(さみせん)、じやうるり、たいこもちの類なれば、和氏(くわし)が璧(たま)の夜光なるは知らじと、我もそれより世を遁(のがれ)、山林に隠(かくれ)木の実(み)を食して餓(うゑ)をしのぎけるが、いつとなく仙術(せんじゆつ)を得て飛行(ひきやう)自在(じざい)の身となり風に任(まか)するからだなれば、自(みづから)風来仙人と号して五百余年の星霜(せいそう)を経(へ)たり。今の世の風俗は知[ら]ねども、汝出家を止(やめ)たりとも必[ず]/\芸能(げいのう)を以[て]ほこる事なかれ。また誠の道を以てするとも却[つ]て俗人近寄(ちかよら)ざれば、後には世を捨(すつ)るか世に捨(すて)らるゝの外には出[で]ざるべければ、只東方朔(とうぼうさく)が昔を追[ひ]、滑稽(ひやうひやく)を以て人を近寄[せ]、よく

近く譬(たとへ)をとりて俗人を導[く]べしと。此時浅之進、進(すゝみ)出て申[し]けるは、謹[ん]で先生の教を受(うく)、しかれども我若年にして人情に精(くわし)からず、此事如何してかしかるべき。其時、風来仙人手に持[ち]し羽扇をあたへて曰[く]、是は我仙術の奥義をこめし団扇(うちわ)なり。抑(そも/\)此団扇を以てあをげば、暑(あつき)時は涼風(すゞしきかぜ)出[で]、寒(さむき)時は暖(あたゝか)なる風を生じ、飛[ば]んと思へば羽ともなり、海川にては船ともなり、遠近を知[り]、幽微(ゆうび)を見る。身をかくさんと思へば忽(たちまち)に見へざる奇妙(きめう)希代(きたい)の重宝なり。是を以て天地の間を往来し諸国の人情を知[る]べし。只人情の至[る]処は色欲(しきよく)を