もち、女の子、三絃、じやうるり、たいこもちの類なれば、和氏が璧の夜光なるは知らじと、我もそれより世を遁、山林に隠木の実を食して餓をしのぎけるが、いつとなく仙術を得て飛行自在の身となり風に任するからだなれば、自風来仙人と号して五百余年の星霜を経たり。今の世の風俗は知[ら]ねども、汝出家を止たりとも必[ず]/\芸能を以[て]ほこる事なかれ。また誠の道を以てするとも却[つ]て俗人近寄ざれば、後には世を捨るか世に捨らるゝの外には出[で]ざるべければ、只東方朔が昔を追[ひ]、滑稽を以て人を近寄[せ]、よく
近く譬をとりて俗人を導[く]べしと。此時浅之進、進出て申[し]けるは、謹[ん]で先生の教を受、しかれども我若年にして人情に精からず、此事如何してかしかるべき。其時、風来仙人手に持[ち]し羽扇をあたへて曰[く]、是は我仙術の奥義をこめし団扇なり。抑此団扇を以てあをげば、暑時は涼風出[で]、寒時は暖なる風を生じ、飛[ば]んと思へば羽ともなり、海川にては船ともなり、遠近を知[り]、幽微を見る。身をかくさんと思へば忽に見へざる奇妙希代の重宝なり。是を以て天地の間を往来し諸国の人情を知[る]べし。只人情の至[る]処は色欲を