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風流志道軒伝(ふうりゅうしどうけんでん)

原文(巻之一)

風流志道軒伝 巻之一 09

▼開

と地蔵(ぼさつ)の袖(そで)にすがりて獄卒(ごくそつ)の鉄(てつ)の棒(ぼう)をうらむとかや。将棋は軍のかけ引きなりといへども、韓信(かんしん)、孔明(こうめい)将棋をさしたる噂(うわさ)も聞[こ]へず。今試(こゝろみ)に将棋の上手に採配とらせて軍させば、敵の龍馬に踏殺(ふみころされ)、桂馬の高飛、歩兵(ふ)の餌食となるべし。香を聞[く]ものは、鼻を以て天下を治[むる]がごとき顔(かほ)をしかめ、沈外(ぢんぐわい)息(そく)脈の極秘(ごくひ)を極め、聞香(もんかう)悉能知(しつのうち)と高ぶるとも、たかが無用の翫([もてあそび])、六国なんどと文盲第一の名目を立[つ]ること片腹痛(いたき)ことなり。楊弓は百射て五百中(あたり)たりとも鼠(ねづみ)を射(ゐ)る足[し]にもならず。鞠(まり)が上手なりとて、腹の減(へる)

と金出して色よき装束(しやうそく)着るより外に能(のう)なし。尺八の名人が女郎の屁(へ)に蒔絵(まきゑ)置[き]たるがごときやさしき音を吹出しても、敵討(かたきうち)に出る用意より外何の役にも立[た]ざれば、歯のぬけるだけの損(そん)なり。皷(つゞみ)のヤツハア、太皷のテレツクスツテン/\、とんと上手に成[り]おふせても耳へ入[つ]てぬける間の楽[しみ]にて、名の不朽(ふきう)に伝[ふ]べきにあらず。其外俗の芸と云[ふ]は皆小児の戯(たはふれ)なり。只人の学[ぶ]べきは学問と詩歌と書画の外に出[で]ず。是さへ教あしき時は、迂儒(うじゆ)学究(がくきう)とて上下(かみしも)を着て井戸をさらへ、火打箱で甘藷(さつまいも)を焼[き]、唐の反古にしばられて我身が