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風流志道軒伝(ふうりゅうしどうけんでん)

原文(巻之一)

風流志道軒伝 巻之一 08

▼開

に朽果(くちはて)んは本意ならず。願[はく]ば先生、我に業(ぎやう)とすべき道を教[へ]よ。其時、仙人羽扇をあげて曰[く]、汝能(よく)我言を信ず。今、我身の上と汝が生涯(せうがい)を示(しめ)さん。我は其昔、元暦年中の生れにて、源平の戦なんどは稚心の耳に残(のこり)、漸[く]天下治(おさまり)て鎌倉将軍、政を専(もつはら)にし諸人太平の化(くわ)をたのしむ。我は片田舎(かたゐなか)に長(ひとゝなり)けるが、つく/\思ひめぐらすに、高祖は三尺の剣(けん)を提(ひつさげ)、漢朝(かんてう)四百年の基(もとひ)をひらき、相将(しやう/\)豈(あに)種(たね)あらんやとは楚(そ)の陳渉(ちんしやう)が詞なり。今諸国の大小名を見るに、頼朝、義経の騏尾(きび)について、匹夫(ひつぷ)よりして家を起(おこ)すもの少(すくな)か

らず。我は治世に育(そだち)たれば、剣戟(けんげき)を起(おこ)さんは天にさかふの罪あり。然[ら]ば芸(げい)を以て家を起(おこ)さん事を思ふ。しかはあれども世の俗人の芸と称する茶の湯は、古茶碗(ふるちやわん)、竹べらなんどに千金をつひやして、四畳半の気づまりに、手づからにじり込の草履(ぞうり)をつかむ事、大丈夫の業(わざ)にあらず。立花は一瓶(ぺい)の中に千草万木の趣をこむるといへども、釘にて打[ち]付[け]、はりがねにてため直す事、自然の風景にあらず。碁を打[つ]ものは、ならべて崩(くづし)、くづして並(ならべ)、其智三百六十目の外に出[で]ず。此人死[し]ては西(さい)の河原へ行[き]て、一目打[つ]ては父恋し、二目打[つ]ては母恋し