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風流志道軒伝ふうりゅうしどうけんでん

原文(巻之一)

風流志道軒伝 巻之一 11

身をひそめ、鰻鱺うなぎ泥鰌どぢやうと同じ様にぬらりくらりと世を渡[り]つゝ、つら/\世上を窺ふに、平家西海にしづみて後、上下太平のくわにほこり、賢者けんじやあれども登傭あげもちゆることをしらず。北条、梶原につてなきものは位にすゝむ事あたはず。大江、秩父ちゝぶなんどの賢諸侯けんしよこうありといへども、近寄[ら]んとすれば左右の俗士ぞくしけんをいむこと甚しく、其余、和田、佐々木、土肥、千葉以下はみづから紅白粉べにおしろいをぬりて狂言綺語きやうげんきぎよたはふれ、イヨ市川の殿様とほめられ、或は大いそ小磯より女妓おどりこなんど召[し][へ]、昼夜を分[か]ずサツサヲセ/\、おせゝのかば焼。ぬつぺりとしてやわらか讒諂面ざんてんめん

の者にあらざれば、左右に近付[く]事なく、種々のおごり日ごとに長じ、内證はいすかのはしくいかへらぬ家老用人、興も明日あすもさめるに早ひ薬罐やかん天窓あたまを打[ち]ふつて、三人よれ文殊もんじゆ智恵ちゑ、百人寄[つ]ても出ぬは金なり。さすが人がらぶつておとなげなく無間の鐘もつかれず、お出入の金売橘次にちりをひねつて頼のしるし、一の谷、屋嶋やしまの軍に命をまとにして奉公したる譜代の家来も、格式かくしき有て、めつたには貰はれぬ虎のを借る定紋付を狐狸きつねたぬきちやくすれば、さながら上下のわかちも見えず。其時代に流行はやるものは、坊主、金