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風流志道軒伝(ふうりゅうしどうけんでん)

原文(巻之一)

風流志道軒伝 巻之一 11

▼開

身をひそめ、鰻鱺(うなぎ)泥鰌(どぢやう)と同じ様にぬらりくらりと世を渡[り]つゝ、つら/\世上を窺ふに、平家西海に沈(しづみ)て後、上下太平の化(くわ)にほこり、賢者(けんじや)あれども登傭(あげもちゆる)ことをしらず。北条、梶原に伝(つて)なきものは位に進(すゝむ)事あたはず。大江、秩父(ちゝぶ)なんどの賢諸侯(けんしよこう)ありといへども、近寄[ら]んとすれば左右の俗士(ぞくし)賢(けん)をいむこと甚しく、其余、和田、佐々木、土肥、千葉以下は自(みづから)紅白粉(べにおしろい)をぬりて狂言綺語(きやうげんきぎよ)の戯(たはふれ)、イヨ市川の殿様とほめられ、或は大磯(いそ)小磯より女妓(おどりこ)なんど召[し]抱[へ]、昼夜を分[か]ずサツサヲセ/\、おせゝのかば焼。ぬつぺりとして和(やわらか)な讒諂面(ざんてんめん)

諛(ゆ)の者にあらざれば、左右に近付[く]事なく、種々のおごり日ごとに長じ、内證はいすかの觜(はし)、悔(くい)て返(かへら)ぬ家老用人、興も明日(あす)もさめるに早ひ薬罐(やかん)天窓(あたま)を打[ち]ふつて、三人寄(よれ)ば文殊(もんじゆ)の智恵(ちゑ)、百人寄[つ]ても出ぬは金なり。さすが人がらぶつておとなげなく無間の鐘もつかれず、お出入の金売橘次に塵(ちり)をひねつて頼のしるし、一の谷、屋嶋(やしま)の軍に命を的(まと)にして奉公したる譜代の家来も、格式(かくしき)有て、めつたには貰はれぬ虎の威(い)を借る定紋付を狐狸(きつねたぬき)が着(ちやく)すれば、さながら上下のわかちも見えず。其時代に流行(はやる)ものは、坊主、金