身をひそめ、鰻鱺泥鰌と同じ様にぬらりくらりと世を渡[り]つゝ、つら/\世上を窺ふに、平家西海に沈て後、上下太平の化にほこり、賢者あれども登傭ことをしらず。北条、梶原に伝なきものは位に進事あたはず。大江、秩父なんどの賢諸侯ありといへども、近寄[ら]んとすれば左右の俗士賢をいむこと甚しく、其余、和田、佐々木、土肥、千葉以下は自紅白粉をぬりて狂言綺語の戯、イヨ市川の殿様とほめられ、或は大磯小磯より女妓なんど召[し]抱[へ]、昼夜を分[か]ずサツサヲセ/\、おせゝのかば焼。ぬつぺりとして和な讒諂面
諛の者にあらざれば、左右に近付[く]事なく、種々のおごり日ごとに長じ、内證はいすかの觜、悔て返ぬ家老用人、興も明日もさめるに早ひ薬罐天窓を打[ち]ふつて、三人寄ば文殊の智恵、百人寄[つ]ても出ぬは金なり。さすが人がらぶつておとなげなく無間の鐘もつかれず、お出入の金売橘次に塵をひねつて頼のしるし、一の谷、屋嶋の軍に命を的にして奉公したる譜代の家来も、格式有て、めつたには貰はれぬ虎の威を借る定紋付を狐狸が着すれば、さながら上下のわかちも見えず。其時代に流行ものは、坊主、金