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風流志道軒伝(ふうりゅうしどうけんでん)

原文(巻之一)

風流志道軒伝 巻之一 05

▼開

とおほきになりまさりて、忽(たちまち)能[き]程の人になりて、其形のけそうなる事世に類なく、玉の顔(かんばせ)、緑(みどり)の眉(まゆ)、三十二相の形を備(そなへ)、浅之進を見てゑみを含めば、覚[え]ずも心とろけて酔(ゑゐ)がごとく。彼美女はしづ/\と庭に立[ち]出[で]、顧(かへりみし)て浅之進をさしまねく。浅之進も庭におりたちけるに、彼女手をたづさへいとしづかに仮(つき)山のあたりへ歩行(あゆみゆき)、咲(さき)乱[れ]たる桃花の下、石なんどのありて其中に小き穴(あな)の有けるが其穴の中へ伴ひ行[き]たり。此穴、上より見たる時はわづか五六寸の穴なりけるが、行[く]時はまた人の通ふべき程の道とぞ成[り]たり。

行[く]こと十間あまりになれば其内平にして、犬鶏の聲なんどのほの聞えて、さま/\の木草生(おひ)しげり、梅が枝に木伝ふ鶯あれば、かたへには卯の花の垣根(かきね)いと白く、雲井には子規(ほとゝぎす)のおとづれ、紅葉に鳴[く]小男鹿(さおしか)の聲、或はまた川風さむみ千鳥のむれ居て、雪の降しく処もあり。四時の果実(くわじつ)時をあらそひ、砂の色も常ならず、行[く]水の音までも其清々たる事また有べきにもあらず。それより遥(はるか)歩行(あゆみゆけ)ば、ゑならぬ匂ひの薫(かをり)来(き)て、管弦(くわんげん)の音ほの聞えつゝ、玉をかざれる楼閣(ろうかく)あり。金銀の砂を敷[き]渡