とおほきになりまさりて、忽能[き]程の人になりて、其形のけそうなる事世に類なく、玉の顔、緑の眉、三十二相の形を備、浅之進を見てゑみを含めば、覚[え]ずも心とろけて酔がごとく。彼美女はしづ/\と庭に立[ち]出[で]、顧て浅之進をさしまねく。浅之進も庭におりたちけるに、彼女手をたづさへいとしづかに仮山のあたりへ歩行、咲乱[れ]たる桃花の下、石なんどのありて其中に小き穴の有けるが其穴の中へ伴ひ行[き]たり。此穴、上より見たる時はわづか五六寸の穴なりけるが、行[く]時はまた人の通ふべき程の道とぞ成[り]たり。
行[く]こと十間あまりになれば其内平にして、犬鶏の聲なんどのほの聞えて、さま/\の木草生しげり、梅が枝に木伝ふ鶯あれば、かたへには卯の花の垣根いと白く、雲井には子規のおとづれ、紅葉に鳴[く]小男鹿の聲、或はまた川風さむみ千鳥のむれ居て、雪の降しく処もあり。四時の果実時をあらそひ、砂の色も常ならず、行[く]水の音までも其清々たる事また有べきにもあらず。それより遥歩行ば、ゑならぬ匂ひの薫来て、管弦の音ほの聞えつゝ、玉をかざれる楼閣あり。金銀の砂を敷[き]渡