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風流志道軒伝(ふうりゅうしどうけんでん)

原文(巻之一)

風流志道軒伝 巻之一 07

▼開

右に羽扇(うせん)を持[ち]て浅之進をさしまねき、善哉(ぜんざい)/\、汝(なんぢ)教(おしゆ)べき事ありて、我仙術(せんじゆつ)を以て招寄(まねきよせ)たり、少[し]もあやしむべからずとて、近寄[る]を見れば、形はさながら老人めけども、顔色(がんしよく)は玉のごとく、年の頃三十歳に過[ぎ]ず。髪(かみ)黒く髭(ひげ)長く、目の中さわやかにて、威(ゐ)有[つ]て猛(たけ)からざる姿なれば、浅之進はひざまづきて是を拝す。其時、仙人告(つげ)て曰[く]、汝元来(ぐわんらい)生れつき衆人に優れたるに、父母仏法にとらかされ出家させんとする事、金を泥(でい)中へ抛(なげうつ)がごとし。我是を救[は]んがため汝を爰にまねけり。それ仏法は寂滅(じやくめつ)を教(をしへ)とし地獄(ぢごく)

極楽なんど名を付[け]て愚痴無智(ぐちむち)の姥嬶(うばかゝ)を教[ふ]る方便(ほうべん)にして、智ある人を導(みちびく)べき教にはあらず。人は陰陽の二ッを以て体をなす。譬(たとへ)ば、石と金ときしり合[ひ]て火を生ずるがごとし。火の薪(たきゞ)ある内は人の一生のごとし、火消[ゆ]る時、跡に残(のこる)所の炭(すみ)は即[ち]死骸(しがい)なり。其時消(きへ)たる火、地獄(ぢごく)へ行[く]や極楽(ごくらく)へ行[く]や、汝此行衛をしらば地獄極楽有とすべしと。浅之進手を拍(うつ)て大に悟(さとり)て曰[く]、先生の教(をしへ)を受(うけ)て是までの迷(まよひ)豁然(くわつぜん)として夢(ゆめ)の覚(さめ)たるがごとし。今より出家の志を止([とどむ])べし。しかれども人世の中にありて、只草木と共