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風流志道軒伝ふうりゅうしどうけんでん

原文(巻之一)

風流志道軒伝 巻之一 07

右に羽扇うせんを持[ち]て浅之進をさしまねき、善哉ぜんざい/\、なんぢおしゆべき事ありて、我仙術せんじゆつを以て招寄まねきよせたり、少[し]もあやしむべからずとて、近寄[る]を見れば、形はさながら老人めけども、顔色がんしよくは玉のごとく、年の頃三十歳に過[ぎ]ず。かみ黒くひげ長く、目の中さわやかにて、[つ]たけからざる姿なれば、浅之進はひざまづきて是を拝す。其時、仙人つげて曰[く]、汝元来ぐわんらい生れつき衆人に優れたるに、父母仏法にとらかされ出家させんとする事、金をでい中へなげうつがごとし。我是を救[は]んがため汝を爰にまねけり。それ仏法は寂滅じやくめつをしへとし地獄ぢごく

極楽なんど名を付[け]愚痴無智ぐちむち姥嬶うばかゝを教[ふ]方便ほうべんにして、智ある人をみちびくべき教にはあらず。人は陰陽の二ッを以て体をなす。たとへば、石と金ときしり合[ひ]て火を生ずるがごとし。火のたきゞある内は人の一生のごとし、火消[ゆ]る時、跡にのこる所のすみは即[ち]死骸しがいなり。其時きへたる火、地獄ぢごくへ行[く]極楽ごくらくへ行[く]や、汝此行衛をしらば地獄極楽有とすべしと。浅之進手をうつて大にさとりて曰[く]、先生のをしへうけて是までのまよひ豁然くわつぜんとしてゆめさめたるがごとし。今より出家の志を[とどむ]べし。しかれども人世の中にありて、只草木と共