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風流志道軒伝ふうりゅうしどうけんでん

原文(巻之一)

風流志道軒伝 巻之一 06

し、瑠璃るりきざはし瑪瑙めのう欄干らんかん、また譬[ふ]るにものなし。浅之進は此処に至りて少し猶余ゆうよし居たれば、彼美女、かく来たれとて先に立[ち]、幾間ともなく廊下ろうかを伝ひ行[き]て、一間なる所へ請じ入りけり。数多の美女立かわり茶の給仕きうじしつゝ、様々の菓子なんど出すを見れば、何も初かいこの中より出[で]たる女にもまさりてあでやかなるに、思ひ/\のぬいものして、いときらびやかなる衣類をかざり、立[ち]かわり入替[り]て出[づ]る度に酒肴の数々、善尽[く]し美つくし、今様をうたひかなで、或は美なる女の来て、手を取[り]足をさすりつゝひとかた

ならぬもてなし。浅之進はきやうに乗じ思はずも酒をすごして美女のひざに打[ち]もたれ、とろ/\とまどろみけるが、しばらくして目を覚[ま]しあたりをみれば、今まで有つる美女の姿も酒肴も宮殿きうでんもなし。扨は夢にて有けるかと打[ち]見れば、松柏せうはくは枝をつらね、岩にくだくるたに水の音のみして、我住[み]し寺内の体にもあらず。扨々、きつねたぬきの為にまどはされしかと茫然ぼうぜんとしてながめ居たる処に、一むれの雲下りて中よりあやしき姿せしもの、木の葉を以て衣とし頭にはきんをいたゞき、左にあかざの杖をつき