し、瑠璃の階、瑪瑙の欄干、また譬[ふ]るにものなし。浅之進は此処に至りて少し猶余し居たれば、彼美女、かく来たれとて先に立[ち]、幾間ともなく廊下を伝ひ行[き]て、一間なる所へ請じ入りけり。数多の美女立かわり茶の給仕しつゝ、様々の菓子なんど出すを見れば、何も初メ卵の中より出[で]たる女にもまさりてあでやかなるに、思ひ/\の繍して、いときらびやかなる衣類をかざり、立[ち]かわり入替[り]て出[づ]る度に酒肴の数々、善尽[く]し美つくし、今様をうたひかなで、或は美なる女の来て、手を取[り]足をさすりつゝひとかた
ならぬもてなし。浅之進は興に乗じ思はずも酒をすごして美女の膝に打[ち]もたれ、とろ/\とまどろみけるが、暫して目を覚[ま]しあたりをみれば、今まで有つる美女の姿も酒肴も宮殿もなし。扨は夢にて有けるかと打[ち]見れば、松柏は枝をつらね、岩にくだくる渓水の音のみして、我住[み]し寺内の体にもあらず。扨々、狐狸の為にまどはされしかと茫然としてながめ居たる処に、一むれの雲下りて中よりあやしき姿せしもの、木の葉を以て衣とし頭には巾をいたゞき、左に藜の杖をつき