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風流志道軒伝(ふうりゅうしどうけんでん)

原文(巻之一)

風流志道軒伝 巻之一 06

▼開

し、瑠璃(るり)の階(きざはし)、瑪瑙(めのう)の欄干(らんかん)、また譬[ふ]るにものなし。浅之進は此処に至りて少し猶余(ゆうよ)し居たれば、彼美女、かく来たれとて先に立[ち]、幾間ともなく廊下(ろうか)を伝ひ行[き]て、一間なる所へ請じ入りけり。数多の美女立かわり茶の給仕(きうじ)しつゝ、様々の菓子なんど出すを見れば、何も初メ卵(かいこ)の中より出[で]たる女にもまさりてあでやかなるに、思ひ/\の繍(ぬいもの)して、いときらびやかなる衣類をかざり、立[ち]かわり入替[り]て出[づ]る度に酒肴の数々、善尽[く]し美つくし、今様をうたひかなで、或は美なる女の来て、手を取[り]足をさすりつゝひとかた

ならぬもてなし。浅之進は興(きやう)に乗じ思はずも酒をすごして美女の膝(ひざ)に打[ち]もたれ、とろ/\とまどろみけるが、暫(しばらく)して目を覚[ま]しあたりをみれば、今まで有つる美女の姿も酒肴も宮殿(きうでん)もなし。扨は夢にて有けるかと打[ち]見れば、松柏(せうはく)は枝をつらね、岩にくだくる渓(たに)水の音のみして、我住[み]し寺内の体にもあらず。扨々、狐(きつね)狸(たぬき)の為にまどはされしかと茫然(ぼうぜん)としてながめ居たる処に、一むれの雲下りて中よりあやしき姿せしもの、木の葉を以て衣とし頭には巾(きん)をいたゞき、左に藜(あかざ)の杖をつき