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風流志道軒伝ふうりゅうしどうけんでん

原文(巻之一)

風流志道軒伝 巻之一 04

をさな心に思ふ様、我好[み]て出家せんとにはあらざれども父母のかく宣ふはひとへ仏縁ぶつゑんのなす所なれば、此上は一筋に仏法の奥儀をきわめて天下の名僧と成[り]て衆生を済度さいどせんものと、日夜朝暮、仏経ぶつきやうまなこをさらし、行住ぎやうぢう坐臥ざぐわの勤おこたらず。学問の外余のまじわりは、なつの夜の花火見にさそはれても俗人のたのしみまさに電光石火でんこうせきくわのごとしとさとり、春は飛鳥山の花盛[り]も、むれつゝ人の来るのみぞあたら桜のとがには有けりとつぶやきて、雪をよせほたるあつむるこそ故人の心なんめりと、ひとり竹窓たけまどのもとに日ぐらし硯に

むかいて見ぬ世の人を友とし、四方の景色うらゝかに春しり顔に咲乱さきみだれたる庭前の桃のさかりなるに仙境せんきやうの趣を思ひ出[し]つゝ、余念よねんもなき折から、のきをくふつばくらまどより内に飛[び][り]つゝつくゑの上におり居たり。浅之進は身を動[かさ]ば燕の驚[か]んかとひそまりて見る内に、彼燕机の上にかいこを一ッ産落うみおとし[いづ]ちともなく飛[び][き]けり。浅之進はかいこを取上[げ]もあらば入[れ]なんと思ふ内、彼卵二ッにわれて中より人の形したるものぞ出[で]たりける。昔竹採たけとりおきなが竹の中より取得たる赫奕姫かくやひめの類ならんかと打[ち][り]て居る内にすく/\