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風流志道軒伝(ふうりゅうしどうけんでん)

原文(巻之一)

風流志道軒伝 巻之一 04

▼開

稚(をさな)心に思ふ様、我好[み]て出家せんとにはあらざれども父母のかく宣ふは偏(ひとへ)に仏縁(ぶつゑん)のなす所なれば、此上は一筋に仏法の奥儀を極(きわめ)て天下の名僧と成[り]て衆生を済度(さいど)せんものと、日夜朝暮、仏経(ぶつきやう)に眼(まなこ)をさらし、行住(ぎやうぢう)坐臥(ざぐわ)の勤おこたらず。学問の外余の交(まじわり)は、夏(なつ)の夜の花火見に誘(さそは)れても俗人のたのしみまさに電光石火(でんこうせきくわ)のごとしと悟(さとり)、春は飛鳥山の花盛[り]も、むれつゝ人の来るのみぞあたら桜のとがには有けりとつぶやきて、雪を寄(よせ)、蛍(ほたる)を集(あつむる)こそ故人の心なんめりと、独(ひとり)竹窓(たけまど)のもとに日ぐらし硯に

むかいて見ぬ世の人を友とし、四方の景色うらゝかに春しり顔に咲乱(さきみだれ)たる庭前の桃の盛(さかり)なるに仙境(せんきやう)の趣を思ひ出[し]つゝ、余念(よねん)もなき折から、軒(のき)に巣(す)をくふ燕(つばくら)の窓(まど)より内に飛[び]入[り]つゝ机(つくゑ)の上におり居たり。浅之進は身を動[かさ]ば燕の驚[か]んかとひそまりて見る内に、彼燕机の上に卵(かいこ)を一ッ産落(うみおとし)て何([いづ])ちともなく飛[び]行[き]けり。浅之進は卵(かいこ)を取上[げ]、巣(す)もあらば入[れ]なんと思ふ内、彼卵二ッに破(われ)て中より人の形したるものぞ出[で]たりける。昔竹採(たけとり)の翁(おきな)が竹の中より取得たる赫奕姫(かくやひめ)の類ならんかと打[ち]守[り]て居る内にすく/\