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根南志具佐ねなしぐさ

原文(三之巻)

根南志具佐 三之巻12

なかばにて河豚ふぐときならざれば、この御評議ごへうぎ御無用ごむようならんと申上まをしあぐれば、龍王りうわうもせんかたなく、無用むようなが詮議せんぎときうつるとも、所詮しよせんらちあくまじければ、此上このうへは、この龍王りうわう一人いちにん自身じしん立向たちむかひ、 くもおこあめふらし、菊之丞きくのぜう引抓ひつつかん閻广王ゑんまわうたてまつらんと、なみ蹴立けたてたち給ふ。一座いちざうろくず前後ぜんごをかこひ、にはとりをさくになんうしかたなもちいなん、 今一いまひと御評議ごへうぎとめてもとまらず。前後ぜんご左右さいう蹴飛けとばし、 黒雲くろくもおこいで給ふところに、御門ごもんひかへたるものつゝといで御腰おこしをむづとだく。ふりほどかんとし給へども、中々なか/\容易たやすく動得うごきえず、御所ごしよ五郎丸ごらうまるにては

よもあらじ。何者なにものなるぞこゝをはなせとふりむき給へば、天窓あたまさらいたゞきたる水虎かつぱにてぞありける。 龍王りうわう御聲おんこゑたかく、おのれ下郎げらうぶんとして推参すゐさん至極しごくと、御手おんてをふり上ヶあげうたんとし給ふところ大勢おほぜいうろくずども左右さいう御手おんてにすがりつき、御とゞめまをせしは、 水虎かつぱきみへの忠義ちうぎなれば、 あしくばしきこめされそ、先々まづ/\御座ぎよざ御直おんなをりと無理むり引立ひつたて、もとのごとく御座ぎよざになをせば、龍王りうわうなほいかり給ふを、水虎かつぱ御前ごぜんににじりより天窓あたまみづもこぼるゝばかりなみだをはら/\とながし、下郎げらうをかへり無礼ぶれいせしも、寸志すんし