なば、其祟は、三途川の川ざらへか極楽の御修復など仰付られては、近年は押なべて金魚銀魚の手はまはらず、ほう/\より緋鯉にせつかれ、世間のしびも白魚のひしことつまりし時節なれば、甚難儀たるべし。若逆鱗つよき時は、 我々此水中を離ていかなる所へか追立られん。もし三十三天の内などへ左遷などゝある時は、 道中にて皆々枯魚となるべければ、仮初ならぬ一大事。急ぎ菊之丞を召捕べき思案あるべしとの仰。一の上座に座し居たる鯨ゆう
/\と立出申けるは、仰の通り御上の御大事、 此時なり。私儀は身不肖ながら家がらたるを以て、代々大老職相勤、是に並居る鰐、鯋魚なんども家老の座に連り、しびまぐろなどは用人を勤むれば、彼等とも内々評議致せし処、所詮人界の様子委く聞届たる上ならでは謀は出まじく存付、手下の者共の内にて才覚ある者どもを忍びに遣し置たれば、定て様子相知れなんと申詞も終らぬ処へ御注進と呼はり/\、真黒になりてころ/\とこけ出るは、本所辺に住居する業平蜆にてぞ