お江戸のベストセラー

根南志具佐ねなしぐさ

原文(三之巻)

根南志具佐 三之巻04

おもうちに、きびらの帷子かたびら小紋こもん羽織はおりさげおとこきたりて、おむすはいよ/\やらしやるつもりに相談さうだんはきまりましたか。一昨日いつさくじつもいふとほり、むかふ国家こくか御大名おだいみやう、おめかけ器量きりやうえらみ、ちうぜいで鼻筋はなすぢとほつ豊後ぶんごぶしをかたるのがあらばとのことこゝなお娘をすりみがきしたら、いけそふなものかとおもふ。こと先様さきさま御好おこのみ豊後節ぶんごぶしはなるなり、いよ/\やらしやるなら、文字もじたのん弟子分でしぶんにしてもらすませるやうにしませう。支度金したくきん八拾両はちじふりやう世話せわちんを二わりひいても八々はつぱろく両の手取てどり。もし若殿わかとのでもうん

やしやれ、こなたしゆ国取くにどり祖父様ぢゝさま祖母ばゝさまなれば、十人ぢふにん扶持ふち二十人にじふにんふちは、たなおい物取ものとるよりはやすいこと。いよ/\やらしやる合点がてんかといへば、夫婦ふうふはよろこび、イヤモ御深切ごしんせつなおせわの段々だん/\、どれかゝ、小半こなからふてこよふと、仏壇ぶつだん下戸棚したとだなからはしたぜにとりいだし、かんなべさげてあしそら、どぶいたふみぬきながらすそをまくつてはしゆく。かつぎしおとこ付込つけこんで、御祝おいはひしゞみかいしやれといふきくより、もし我等われらうられてはなるまいと大勢おほぜい押退おしのけざるそこへかゞんで、ちいそふなつてきゝければ、女房にようばうさかづきあらひながら、けふ