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根南志具佐ねなしぐさ

原文(三之巻)

根南志具佐 三之巻07

千万せんばん急度きつと申渡まをしわたすべし。いま一人いちにんしのびにいりしは、 かねうへにも御存ごぞんじ龍蝦かまくらゑびなり。としまかりよりたれども、さけはそこぬけ、ぴんしやんとはねるところ当世たうせいのひんぬきなりとて、留守居るすゐやく相勤あひつとむれば、元日ぐわんじつより人間にんげんにまじはり、諸寄合しよよりあひ無尽会むじんくわい吉原よしはら堺町さかひてう岡場所をかばしよはじめ兎角とかくむかふへまはりたがり、としくれ浅草市あさくさいちまで、年中ねんぢうひとにすれるが役目やくめなれば、さだめ聞届きゝとゞけまゐらんと申上まをしあがおりから、龍蝦かまくらゑび只今たゞいままかりかへりそろ案内あんないさせ、れいのごとく真赤まつかになりこしをかゞめて立出たちいづれば、龍王りうわう御覧ごらんじ、様子やうすいかにとたづね給へば、さんぞふろ私儀わたくしぎ堺町さかひてうからふき屋町やてう楽屋がくや

新道しんみち、よしてうへん入込いりこみ能々よく/\様子やうすうけたまは候処そろところきたる十五日、菊之丞きくのぜうはじめとして荻野おぎの八重桐やへぎりなんど船遊ふなあそびにいづるよし、微塵みじん毛頭もうとう相違さういなしとことばすくな申上まをしあぐれば、龍王りうわうはなはだよろこび給ひ、流石さすが留守居るすゐやくつとむほどあつて世間せけんあなよくつて、堺町さかひてうとはついたり。神妙しんめうはたらき御褒美ごはうびあづかり髭喰ひげくひそらしてうづくまる。龍王りうわうわに鯋魚ふかちか/\めされ、 此度このたび役目やくめ汝等なんぢらまかりむかふべしとありければ、両人りやうにんハツトひれふしまをしけるは、およそひと取事とることわたくしどもにつゞくものなし。海中かいちうにてさむらはゞ、いなみまをすべきにあらねども、船遊ふなあそびうけたまはれば両国りやうごく永代えいたい