千万、急度申渡べし。今一人忍びに入しは、 兼て上にも御存の龍蝦なり。年罷寄たれども、酒はそこぬけ、ぴんしやんとはねる所が当世のひんぬきなりとて、留守居役相勤れば、元日より人間にまじはり、諸寄合、無尽会、吉原、 堺町、岡場所を始兎角向ふへ廻りたがり、年の暮の浅草市まで、年中人にすれるが役目なれば、定て聞届参んと申上る折から、龍蝦只今罷帰候と案内させ、例のごとく真赤になり腰をかゞめて立出れば、龍王御覧じ、様子いかにと尋給へば、さん候、私儀は堺町からふき屋町、楽屋
新道、よし町辺へ入込、能々様子承り候処、 来る十五日、菊之丞を始として荻野八重桐なんど船遊びに出るよし、微塵毛頭相違なしと詞少に申上れば、龍王甚悦び給ひ、流石留守居役を勤る程あつて世間の穴を能知つて、堺町とは気が付たり。神妙の働と御褒美に預て髭喰そらしてうづくまる。龍王、鰐、鯋魚を近/\召れ、 此度の役目汝等罷向ふべしと有ければ、両人ハツトひれ伏申けるは、凡人を取事、私どもにつゞくものなし。海中の儀にて候はゞ、いなみ申べきにあらねども、船遊と承れば両国永代の