お江戸のベストセラー

根南志具佐ねなしぐさ

原文(三之巻)

根南志具佐 三之巻08

へんなるべければ、私共わたくしどもちからにおよびがたし。とらいきおひつよしといへどもねずみ捕事とることねこにおとるの道理だうりたとへ最上さいじやう智者ちしやたりとも、つかひどころあしときかへり其智そのちいでざるがごとし。これ余人よじん仰付おふせつけられしかるべしと申上まをしあぐれば、龍王りうわうしばらく御思案ごしあんあり、しから海坊主うみばうず申付まをしつくべしとて召出めしいだされければ、油揚あぶらあげにて真黒まつくろにふとりたるが、 白帷子しろかたびら紋呂もんろころも五条ごでう袈裟けさをかけ、珊瑚さんご数珠じゆずをいと殊勝しゆしやうげにつまぐり、罷出まかりいでて申けるは、私儀わたくしぎ仏弟子ぶつでしとなり、には三衣さんえちやくし、くち仏名ぶつみやうとなへて、厭離ゑんり穢土ゑど懇求ごんぐ浄土じやうど此界このかいしゆ

じやうどもは、火宅かたくにあらぬ水宅すゐたくをのがれて南無網なむあみにすくいとられ、往生わうじやう素懐そくわいをとげるやうにとみちびくこそ出家しゆつけ役目やくめなれ。かゝることなどつとむべきにしもあらねども、近年きんねんわたくしにかぎらず諸宗しよしうとも皆々みな/\風俗ふうぞくわるくなり、出家しゆつけ身持みもちあるまじき栄耀ゑえう栄華 えいぐわくらゆゑ中々なか/\さだまりの布施ふせもつにては、遊女ゆうぢよくるひ、おはな元手もとで重箱ぢうばこ取寄とりよせ肴代さかなだい不足ふそくなれば、葬礼とむらいをかきいれ石塔せきたうしちおきてもおもやうにまはらざれば、ものいはほとけをだしにつかふて、愚痴ぐち無智むちうばかゝをたらしこみ、こうすればふとけ