辺なるべければ、私共力におよびがたし。虎の勢強といへども鼠を捕事猫におとるの道理、譬ば最上の智者たりとも、つかひ処悪き時は却で其智の出ざるがごとし。是は余人に仰付られしかるべしと申上れば、龍王、暫御思案あり、然ば海坊主に申付べしとて召出されければ、油揚にて真黒にふとりたるが、 白帷子に紋呂の衣、五条の袈裟をかけ、珊瑚の数珠をいと殊勝げにつまぐり、罷出て申けるは、私儀仏弟子となり、身には三衣を着し、口に仏名を唱へて、厭離穢土懇求浄土、此界の衆
生どもは、火宅にあらぬ水宅をのがれて南無網の目にすくいとられ、往生の素懐をとげる様にと導こそ出家の役目なれ。かゝる事など勤べき身にしもあらねども、近年は私にかぎらず諸宗とも皆々風俗悪くなり、出家の身持に有まじき栄耀栄華 に暮す故、中々定りの布施もつにては、遊女狂ひ、お花の元手、重箱で取寄る肴代に不足なれば、葬礼をかき入石塔を質に置ても思ふ様にまはらざれば、もの云ぬ仏をだしに遣ふて、愚痴無智の姥かゝをたらしこみ、こうすれば仏に