我参んといふもの一人もなき処に、奥の方に鈴の音して、いとなまめける姿にて立出るを見れば、頬高く鼻小く、背はひきく腹ふくれたるは、まがふ方なき乙姫に召使るおはしたのお河豚なり。諸歴々の並居る真中おめる色なく立出、龍王の前に畏り、最前からの御評議を一々あれにて聞やんすれば、大切のお使に皆様こまりなさんすよし、龍王様の御案もじが御笑止さに、姫ごぜの身で大胆ながら、わつちが思案を申上ます。世の人毎にわつちをば、植木屋の娘か何ぞのやうに、毒じや/\と云ふら
され、腹が立て頬をふくらせば、おふく/\と笑れしが、災も三年と今度の御用を承り、君が情に妾が百年の命を捨、菊之丞が腹へ飛入て連来らんは、ほんに/\心に覚へがありますと、 白歯をむき出し口をすぼめて申上れば、龍王は思案の体。傍にひかえたる棘鬣魚、鰭を正してしづ/\と立出、かやうに申せば物知り㒵に似たれども、僕儀は何によらず祝儀の席をはづさず、仁義礼智のはしくれも覚へしとて儒者の数に加へらるれば、かゝる折から差扣んも尸位素餐にて候へば、覆蔵なく申上ん。