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根南志具佐(ねなしぐさ)

原文(三之巻)

根南志具佐 三之巻03

▼開

ありける。龍王(りうわう)は御聲(おんこゑ)高(たか)く、彼等(かれら)ごとき下郎(げらう)たりも甚(はなはだ)急(いそ)ぎの事(こと)なれば直(ぢき)に聞(きく)べきとの御諚(ごぢやう)。 蜆(しゞみ)恐(おそ)れ入(いり)て口(くち)を明(あけ)、私儀(わたくしぎ)人界(にんがい)へ忍(しの)びの役目(やくめ)を承(うけたまは)り、籔(ざる)の中(なか)へはかり込(こま)れ、人(ひと)の肩(かた)にかつがれ、方々(はう/\)と歴廻(へめぐ)り、大抵(たいてい)人界(にんかい)の様子(やうす)承(うけたまは)りて参(まい)りたり。先(まづ)私(わたくし)罷通(まかりとほ)りし所(ところ)は、処々(しよ/\)の新道(しんみち)裏店(うらだな)が第一(だいいち)なれば、大名(たいみやう)小路(こうぢ)は勿論(もちろん)、通(とほ)り筋(すぢ)などの様子(やうす)は存(ぞん)ぜず。先(まづ)始(はじめ)参(まゐ)りし所(ところ)にて、何(なに)かは知(し)らず私(わたくし)をかつぎし男(おとこ)、一升(いつせう)十五文(じふごもん)と申(まを)せば、年(とし)の頃(ころ)三十(さんじふ)計(ばかり)の女房(にようばう)立出(たちいで)、五文(ごもん)にまけろと云(い)ふ。かつぎし男(おとこ)腹(はら)を立(たて)、とつぴよふずも

ない盗物(ぬすみもの)では有(ある)まいし、半分(はんぶん)殻(から)でもそふは売(う)らないと悪(あく)たいついて立出(たちいづ)れば、後(あと)にて女房(にようばう)さしも小美(こうつくし)い㒵(かほ)しながら、えいかと思(おも)ふていけすかないごてれつめ、そんな悪(あく)たいはうぬがかゝにつけろとはり込(こみ)聲(こゑ)のほの聞(きこへ)ても、かつぎし男(おとこ)は聞(きか)ぬ㒵(かほ)して、蜆(しゞみ)や/\と売(うり)て通(とほ)れば、とある格子(かうし)作(づく)りの内(うち)に、かなきつた聲(こゑ)ではなたれ娘(むすめ)が三弦(さみせん)をぞ弾(ひき)居(ゐ)たる。此(この)龍宮界(りうぐうかい)にては琴(こと)三弦(さみせん)などは能衆(よいしゆ)ばかりの翫(もてあそび)かと思(おも)ひしに、かゝる小(ちいさ)き暮(くらし)にて姫に三弦弾(ひか)すとは、扨々(さて/\)人間(にんげん)と云(い)ふものはおごりしものかなと